シューゲイズバンド・Auxin、7年ぶりにステージに立つ。閉鎖が決まっている新宿JAMで最初で最後の復活ライブ
フラワーアーティストの相壁琢人さんが、2017年10月29日(日)に新宿JAMでイベント『Youth』を開催しました。今回は、7年ぶりに復活した相壁さんが所属するバンドAuxinのライブレポートと、相壁さんへのインタビューをお届けします。
シューゲイズバンド・Auxin、7年ぶりにステージに立つ。閉鎖が決まっている新宿JAMで最初で最後の復活ライブ
art work by Miki Toyota
photo by Shiho Aketagawa
report & interview by Fuhito Kitahara
2017年10月29日(日)、台風22号の接近でこの日の東京は大雨に。憂鬱な空模様のなか向かったのは、今年37周年を迎え年内いっぱいで取り壊されることが決まっている老舗ライブハウス・新宿JAM。フラワーアーティストの相壁琢人がアートイベントを開催する、しかも本人は7年ぶりに復活するバンドでドラムを叩くと聞いてやってきたのだ。
JAM以外全住民が立ち退いたビルが雨の中に寂しそうに佇んでいる。鮮やかにペイントされた階段を降り重いドアをくぐると、暗闇の中に浮かび上がる巨大な押し花のオブジェ。フロアのど真ん中に鎮座している。ライブを観るには、正直「邪魔だな」と思った。フロアーの壁ではライブペイント、映像上映がすでにスタートしている。
フロアは、押し花のパネルを囲むように100名ほどの観客が詰めかけている。耳をすますと、まるで同窓会のように「久しぶりー」「元気だった」と再会を喜びあう声。みんな7年ぶりに復活するAuxinのために集まったのだ。小さな子供を連れた母親もいる。7年という時間の重みを実感する。
SEが変わった。荘厳で幻想的で耽美的な曲が、だんだんと激しさを増す。否が応でもラ イブへの期待が高まる。
客電が消え、メンバーがステージに登場。観客がどっとステージ前に押し寄せる。
ギターのハウリングが唸る。「Auxin始めます」の短い声とともに1曲目「Beyond The Dark To Truth」がスタート。江渡、柿崎、藤岡の3本のギターによる轟音が全てを埋め尽くす。可聴域を超える音域から相壁のドラムと濱中のベースのビートが体を容赦なく打ち付けてくる。「格好良い」初めてみるバンドへの不安が一気に霧散する。
電気が止まったかのように1曲目が終わり、シンセサイザーから2曲目「Hope Of A Four-Leaf Clover」が始まる。ギターがアルペジオ、ドラムがリズムを刻み始める。1曲目の轟音とは打ってかわり耽美的なリバーブギターから徐々に激しくなる曲。そして、シューゲイザーバンドの名に恥ない音の塊が会場を包みこむ。メンバーは後ろを向いたままだ。突如轟音がやみ、アルペジオのリフに戻り終了。
客席から掛け声がとぶ。江渡(Gt.Vo)のMCが始まる。
僕たちがバンドを始めたのは大学1年生くらいで、その後Auxinでやらせてもらったのが新宿JAM。バンドをやめなくてはならなくて最後のライブをやらせてもらったのも新宿JAMで。もう一度やるならここだなと僕の中で考えていたので、今回こうしてもう一度ライブをやらせてもらう機会をいただいて嬉しく思います。みんな今日は雨の中ほんと、 これからもっと強くなると思うんですけど、これだけ多くの人に集まってもらって嬉しく思います。ありがとうございます。
大きな拍手をかき消すように3曲目「Pure Eyes Saw the True Sky」に。相壁のドラムが印象的な曲だ。ギターに乗って詩が朗読される。一瞬のブレイクの後、ハウるギターとともに楽曲はクライマックスへ。このメンバーで演奏をできる喜び、JAMでまた演奏できる喜びを噛みしめるように身体をリズムに預け、掻き毟るように演奏するメンバーたちが印象的だった。
MCをはさんで4曲目「掌上のサンクチュアリ」が始まる。意外なダンサンブルなイントロに観客は足でリズムを取り始める。しかしそう簡単に踊らせない。楽曲は三拍子や複雑なキメを多用するプログレだ。そして、「ありがとう」の声とともに、また突如曲がおわる。短くも印象的な曲だった。
そしてラストの「生命の証明」。幻想的なアルペジオからスタートし、ドラムがビートを刻みはじめると曲が一変。観客は体を揺らしはじめる。3本のギターの共演。そして、江渡による詩の朗読、濱中のコーラスが入る。朗読が熱を帯び始め、気づくと絶叫に。まるで太陽の中を歩いているかのようか明るく暖かいリズムとメロディをバックにした絶叫。そして激しいフラッシュと共に、またもや会場は轟音に包み込まれる。荒れ狂う轟音だが、なぜか暖かい。春風のような轟音が会場を飛び交う。そして曲は徐々にスローになり、なにもかも轟音に呑み込まれた。
フィードバックのみを残しバンドはステージを降りた。7年ぶりのライブにしてはMCも淡々としたものだったが、それ以上に僕たちの耳にいつまでも消えないノイズと、胸の奥底に暖かさを残していった。
Youth 日程:2017年10月29日(日) [LIVE] [Live Painting] [映像] SE. Wish |
相壁琢人 インタビュー
今回のイベントの主催者・相壁琢人さんに、イベント終了後に楽屋でインタビューをさせてもらいました。
イベントお疲れ様でした。まずは、今回のイベントを開催した理由を聞かせてください。
相壁 Auxinの始まりと終わりのライブが新宿JAMだったというのが大きな理由ではあるのですが、これまでフラワーアーティストとして個展などを続けてやってきたなかで、僕が花をはじめた気持ち自体を見失っていたところがあって。
7年前にバンドを解散した時に、僕はこれから何ができるだろうって思ったら花しかなかったので、すがるようにと花を始めて。2年前に独立して自分でやり始めたんですけど、その時に「どんなことをしても確実に後悔をすることはあるから行動だけはしよう」と決めたことを思いだしたんです。
新宿JAMが閉店するっていうのを聞いて花を飾りたいなとは思ってたんですけど、最初自分のバンドを復活させる気はなくて、単純に花とライブだけみたいなのにしようとしてたんですけど。それだけでは本当に自分が伝えたいものは伝わらないなと思ったので、今回出演してくれたバンドもそうですし、ライブペインティングも映像も、自分が活動してきた中で出会ってきた人にオファーを出して開催したという流れです。
バンドを復活させるというのは、メンバーの皆さんはすんなりOKしてくれたのでしょうか?
相壁 すんなりOKでした。もともと、解散した理由というのが作曲もしていたボーカル/ギターが転勤になってバンド活動ができなくなってしまったことなので、今回ほんとタイミングもよくて、ベースも子供が生まれて産休だとか、ボーカルギターも転勤から戻ってきたみたいなタイミングだったので、ありがたいことにみなさん二つ返事で。
僕以外のメンバーは家庭があって子供がいてっていう状況だから負担をかけてしまうんだけど、そのおかげで今回はこういうイベントになったんだなと思いますね。僕ひとりでどうこうっていうのじゃないなっていうのが今回すごく出たかなと。
ライブを拝見して、Auxinの音楽性と相壁さんの花の展示とかの活動が繋がっている感じがしました。
相壁 ですね。本当にそのまま「音じゃなくて花になっただけ」みたいな形かなと。あと、Auxin では1曲1曲に対して、「こういう歌詞でこういうメロディーだからこういうストーリーにしたい」って考えてリズムを作らせてもらっていたことも影響してるのかなと思います。
今日はそういう意味で、Auxinがいなかったらまた違ったイベントになったんだなと感じましたね。
相壁 そう言っていただけると!(笑)
また、今日はこの台風にもかかわらず100人ほどのお客さんが詰めかけていて、なにか同窓会的な雰囲気も感じました。
相壁 JAMの店長の石塚さんと「同窓会みたいなイベントになったらいいね」と話してたので、そういうイベントになったのはすごく嬉しかったなと。というか、ライブをする人も、花を飾る人も、ライブペイントをする人も、自分たちだけ楽しくて終わりじゃなくて、みんなが楽しんでくれてたと思うので、無理しても行動した意味はあったのかなと思いますね。
ひとつ気になったのは、客席のど真ん中に押し花の巨大パネルがあって、客席からステージを見ていて正直邪魔だなって思ったんですけど(笑)、これを設置したのはどうしてなんですか?
相壁 あれは今回のアートイベント全ての要素、ステージも、ライブペインティングも、映像も全てのど真ん中に花を置きたいと思ったからなんです。
そうか!花を中心と考えると、全て要素があれを取り囲んでますもんね。ステージを中心と考える巨大パネルは邪魔でしかないんですが、あの花を中心に考えると相壁さんの考えが見えてくるような気がします。
相壁 あと、僕の花を見てくれる方の中には、ライブハウスに慣れてない人もいるので。
なるほど、今の相壁さんのお客さんに安心感を与えるという意味も含まれてるんですね。
相壁 イベントを開催するにあたり、色々な方に参加してもらうからこそ、より自分が今やってる作品や活動からは逃げたくないという気持ちが強かったので。壁とかに押し花を設置したら見やすいことは見やすいと思うんですけど、展示場所はあそこかしかなかったなと。
今回のイベントを開催したことによって、これからの相壁琢人というフラワーアーティストが何か変わっていったりすることはあるのでしょうか?
相壁 会場で配布したポストカードの裏にもメッセージを書いているのですが、行動してたり活動している間ってその時が永遠に続くかのように感じることがあると思うんですけど、そうではなくて、その一瞬一瞬で、花もやっぱり朽ちるし、音楽も終わるし、絵も消えるし、会場だってなくなる。
だけど、自分で決めて行動をすることによって見てきた風景、情景はずっとつながっていくんだよっていうのは僕自身がAuxinを再結成したことによって再認識できたので、これまでより伝えることを恐れないようにしようと。今まではずっと東京でやってたので、東京以外でもきっちりやっていきたいなと。
ちなみに、Auxinは続けていくんですか?
相壁 いや、Auxinは今晩限りで。
音楽活動自体は?
相壁 僕は音楽もドラムもすごく好きなんですけど、そこは敬意を持って花の作品と共に高め合う関係でいたいので。やることはないと思います。
まあ、このインタビューでやらないって言ったからって、やったっていいわけですしね。
相壁 そうですね。もうちょっと活動も安定してオッサンになったらやるかもですね。
まだオッサンじゃないんですか?(笑)
相壁 僕はまだおっさんじゃないです(笑)。あと3年くらいは頑張ります(笑)
今日はありがとうございました。この続きは台湾で!
ライブフォト
Flower Exhibition
LIVE PAINTING
映像
当日上映されたCATTLEYA TOKYOによる映像作品
メッセージ
最後に、このイベントの主催・相壁琢人さんによるメッセージを紹介します。
花の手向けは、来場していただいた方々にある輝かしい青春の思いをなくなっていくライブハウスに献花してもらい、僕がその花を作品にするという意図のインスタレーション作品です。
行動すれば、形はなくなっても思いは必ず繋がっていくという思いを込めました。
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