2019-05-25 12:00

CIRCLE SOUNDS インタビュー | 30周年を迎えたリハーサルスタジオが見てきた景色とは

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自由が丘のリハーサルスタジオ「CIRCLE SOUNDS」が、昨年2018年に30周年を迎えた。

CIRCLE SOUNDSはマスターの丸山好彦さんが1人で切り盛りしていて、僕もバンドをやっていた頃、練習やレコーディングで大変お世話になったスタジオだ。

 
30年という長い年月の間にどんな風景を見てきたのか知りたくて、久しぶりに自由が丘を訪れた。

 

写真/協力:HAPPLE
インタビュー/テキスト:きたはらふひと

 
 

| お客さん同士がすぐに仲良くなっちゃうようなバイブレーション

 
自由が丘駅正面口から6分ほど歩き、ローソン(以前はスリーエフだった)の角を曲がるとピザレストラン「薪釜ピッツァ・オルガニコ」が見えてくる。その手前の階段をくだるとそこが「CIRCLE SOUNDS」。

 
ドアを開けるとマスターが「いらっしゃい」と気さくに出迎えてくれた。入口をくぐるとすぐのカウンターの前で練習終わりのバンドマンがビールを飲んでいる。ビールを片手にツアー先で買ったお土産のお菓子を広げてマスターと談笑している、そんな風景はここではけして珍しくない。マスターと話しているうちに知らず知らずと長居してしまうのもCIRCLE SOUNDSの魅力だ。
  
 
「CIRCLE SOUNDSは今年2019年で31周年を迎えてオンボロなんですけど、お客さん同士がすぐに仲良くなっちゃうようなバイブレーションがある、そんなスタジオなんです」「酒だけ呑みにくるやつもいてさ。みんなでお酒を呑んでるからか、アーティスト同士がすぐに仲良くなっちゃうんだよね」

 
A〜Cまで3つあるうちの1部屋をお借りしてインタビューを開始した。するとすぐに「ルルルルル…」とスタジオ予約の電話がかかってくる。1人で切り盛りしているとこういう時も大変だ。マスターが電話対応している間に、スタジオを利用しているバンドマンたちが覗きにきて、「インタビューやってるんだって?」とCIRCLE SOUNDSの魅力を次から次に語ってくれた。このフレンドリーさに「すぐに仲良くなっちゃうようなバイブレーション」を実感することができた。

 
 


CIRCLE SOUNDSのマスターこと丸山好彦さん。お忙しい中、お話ありがとうございました!

 
 

| 耳が疲れないスタジオ

 
ごめん、ごめん、とマスターが電話対応を終えて戻ってくる。「CIRCLE SOUNDSはちっちゃなスタジオなんだけど、耳が疲れない練習ができると思います」。

 
一般的に音が回ってしまうようなスタジオでは、自分の楽器の音が聞こえづらく、ついつい音を大きくしがちだ。そうすると、他のメンバーも音をあげるので、いよいよ聞こえなくなってしまうことがある。爆音での練習は当然耳が疲れる。

その点、CIRCLE SOUNDSは他のメンバーの音も自分の音も聞こえやすい、バランスの良い音で練習ができるスタジオで、それを証拠に「ここでリハをやっていればどこに行ってもできる」と言ってくれるバンドマンもいるとのことだ。

 
 

 
 

| 僕はスタジオに行くのが好きだったんです

 
そんなスタジオだが、始めたキッカケは今でいうなら完全にブラック企業のような会社から脱サラしたことだという。毎日終電で帰るような会社で胃を壊してしまい「このままじゃ死ぬな」と思って会社を辞めたのが29歳。会社は辞めたもののこれから何をしようと思っていた際に、奥様から「スタジオでもやればいいじゃない」と言われたことがキッカケになったそう。

 
「僕らが学生の頃というのは今みたいにスタジオがたくさんあったわけでもなく、料金も高くて、それこそライブ前に1回しか入れなかったんですよ。だからスタジオに行く前の晩はギターの弦を張り替えたりね。ライブ1回分と同じくらい気合い入れてスタジオに行ってたので、僕はすごくスタジオに行くのが好きだったんですね。それで自分でもやってみようと思って何も考えずに始めちゃったんですよ」

 
 

 
 

| みんながお祝いしてくれるからやめられないなって

 
マーケティングなど何も考えずに始めたスタジオだが、創業の年にBOØWYが東京ドームでワンマンを行い、翌年1989年に伝説的番組『イカすバンド天国』が始まる。そんなバンドブームも手伝って順調にスタジオ経営はスタートする。「学祭シーズンには全室満室なんてこともしょっちゅうだったんですよ」。

 
順風満帆に滑り出したスタジオだが、経営が苦しかった時期もあり「やめようかな」と思ったこともあった。そんな時にアインさん(NATSUMEN, BOAT)が「CIRCLE SOUNDSは20周年じゃないの?記念のライブをやろうよ」とスタジオを利用しているバンドやアーティストに呼びかけ、盛大に20周年記念ライブを開催してくれたそうだ。

 
「盛大にやってくれて、みんながお祝いしてくれるからやめられないなって。だけど勘定してみたら実は18年だった(笑)」。

 
そんな笑い話もしてくれつつ「BOATといえばね、最後のアルバム『RORO』が出た時は嬉しかったですね」と目を細めながら話してくれた。

「あいつらCスタに1ヶ月くらずっとこもって録音をしてたんだけど、アルバムの最後の曲が「CIRCLE SOUND」という曲でね。そんなこと(事前に)何も言わないんだよ」

「それで、NATSUMENを始めた時に1枚目のアルバムにうちの娘がフルートを吹いて、レコ発にも出たんですよ。それがすごく嬉しかったな。」

 
 

 
 

| この仕事の喜びとは

 
「さっきのBOATもそうだけど、お客さんが「CDができました〜」といって渡してくれる時ですね」

 
スタジオ利用者のCDはCIRCLE SOUNDSでも販売もしており、CIRCLE SOUNDSの通販サイトでも購入することができる。

 
「あと、ライブを観に行く時ですよね。廊下に漏れてくる音を聴いてるから曲はだいたい知ってるんだけど、漏れてくる音よりもライブでの生の音が全然良いわけだよね。ライブを観ると「いいな〜っ」て思うの。だからなるべく観に行くようにしてるんだけど」

 
スタジオのマスターがライブに来てくれるなんて他にあるんだろうか。マスターがライブを観に行く時は、常連さんがお店番をやってくれているという。そんな話からもマスターの魅力が伝わってきた。

 
 


CIRCLE SOUNDSでは、スタジオ利用バンド&アーティストの音源を販売中です。通販も行っていますよ(この写真に僕の幻の1stアルバムも写ってます)

 
 

| 九死に一生を得た

 
スタジオの営業は10:00〜24:00で正月以外は年中無休(不定期でお休みあり)。マスターはこんな毎日を30年以上続けてきた。そうそう、と思い出したように「僕、ここで死にかけたんですよ」と語ってくれた。

 
「2010年だったかな?脳出血をやったんですよ。お昼12時のちょっと前くらいになんか変だな〜と思って、平日の昼間だから普通だったらお客さんはあまりいない時間帯なんだけど、HAPPLEの土岐くんがね、ちょうど12時からスタジオを予約して来てくれて発見してくれたの」

 
土岐さんがスタジオに来た時にちょうど発作が始まり、もう呂律も回っていなかったとのこと。その状態はマスター曰く「漫画の吹き出しのセリフが粉々になるみたいに、言葉がパッと消えていく」そんな状態だったという。

 
「土岐くんがなんでそんな時間にスタジオに来たかというと、うちの娘がアニメーションを学校で作っていてそのバックミュージックを作ってくれたんだけど、アニメの尺が変わっちゃって、録音し直すというのでそれで昼から来たんですよ。それがなければ多分死んでたかもしれない」

 
それで土岐さんが救急車を呼んでくれてたのだが「意識が戻ったら救急隊に囲まれて床で寝かされていて、その時は『サイボーグ009』の主人公の島村ジョーがブラックゴーストに捕まって手術されるシーンだと思ったの(笑)。ブラックゴーストに捕まる!と思って大暴れしてたら担架に結束帯みたいなので縛られて運ばれてった。それだけはおぼえていて、その後はもう記憶がないんだけど」

 
脳出血は早めの処置が肝心だという。たまたまその日その時間に土岐さんがいたから後遺症も残らずスタジオを続けてこれた。

 
なんとも壮絶なエピソードだと思って聞いていたら「あの頃は激辛カレーやラーメンばっか食べててさ。1日4食ラーメンとかね。テキメンだったね」と笑顔で付け足してくれた。

 
 

 
 

| 音楽版トキワ荘

 
冒頭でマスターが語ってくれたとおり、CIRCLE SOUNDSはバンド/アーティスト同士がすぐに仲良くなっちゃう稀有なスタジオだ。お互いのイベントにゲストとして呼んだりすることもあるが、決して馴れ合いになっているわけではない。バンドがお互いに影響しあい、負けてらんないぞという刺激を与えあっている。

 
CIRCLE SOUNDSのバンドは音楽性はバラバラなのに、どこか共通する魅力のようなものを感じてそれを尋ねると「それこそ漫画のトキワ荘じゃないけどさ、そんなことが起きていると思うんだ」。その言葉に、切磋琢磨してお互いに高め合うことができるスタジオってなんて素敵なんだと思った。

 
 


リハーサル中のHAPPLE

 


CIRCLE SOUNDSで撮影されたMV
HAPPLE『恋人たちの間奏』(360° Music Video)

 
 

| 若いバンドマンにも気軽にスタジオを使ってほしいですね

 
そんなCIRCLE SOUNDSだが、最近は学生や若い世代のスタジオ利用が減ってきているという。

20歳前後の人口は30年前の半分になってしまい、宅録も簡単にでき、大手のスタジオが各地に作られていく中で、老舗のスタジオは苦境を迎えている。もちろん一生懸命に練習している若いバンドマンはいるのだが、ひと昔前に比べて気軽にコピーバンドをしたりセッションしにくるバンドの減少が著しいとのこと。

 
「若いバンドマンにも気軽に使って欲しいですね」というCIRCLE SOUNDSは、他のスタジオが真似できないような様々なサービスを打ち出している。

 
 

| お得なサービスがいっぱい

 
CIRCLE SOUNDS自体はレコーディングの機材はないものの、レコーディングエンジニアさんを紹介してもらえたり、15,500円からスタジオを14時間貸し切ることもできる(平日のBスタジオの料金。下記の料金表を参照)。レコーディングに限らず、缶詰になって曲作りをしたり練習したり、合宿のような使い方もできるだろう。

 
また、CIRCLE SOUNDSではプロのミュージシャンがギター教室やポピュラーピアノ教室も行っている。スタジオ代だけで楽器レンタルは無料。楽器を買う前に触ってみたいという方にもオススメだ。ギター、ベース、ドラム、ピアノ、シールド、マイク、エフェクターまで無料でレンタルできる。

 
個人練習は1時間500円/1人で、今なら前々日から予約が可能。ドラムを叩いてみたいという人(ドラムスティックも貸してくれる)、ギターをアンプで大音量で鳴らしてみたいなんて人にもオススメだ。セッティング方法も教えてくれる。仕事終わりや学校終わりに楽器を弾き鳴らしてストレス解消にもなりそうだ。

 
そして、レンタルスペースとしても活用することもできる(飲食自由。Cスタのみ喫煙も可)。好きな音楽を大きな音で鳴らしながら、オフ会やサークルでの利用、演劇の練習、ちょっとしたDJパーティーやスタジオライブなどでも利用ができる。自由が丘駅から徒歩6分という立地で、気軽に音出しができるのは大きな魅力だ。

スタジオライブは「練習と同じ音環境でライブができるから、すごくやりやすい」と評判だ。冷蔵庫も貸してくれるからドリンクを販売することもできる。

 
予約は電話かLINEから。LINEでは空き情報も確認できる。LINEに登録すると、今なら初回500円引きクーポンがもれなくプレゼントされる(つまり個人練習が1時間分無料!)。

 
2019年5月・6月のキャンペーンでは「ロックアウト(1日貸切)料金20%引」「学生さんバンド10%引」「3ピースバンド10%引」を実施している。月替わりでお得なキャンペーンが行われているので、公式サイトtwitterをチェックしよう。

 
 

 
 

| 読者への一言

 
最後に、このインタビューを読んでくれている読者の皆さんにマスターから一言いただいた。

 
「オンボロスタジオですが、自分の家みたいに使っていただけたらと思います。友達の家に遊びに行くみたいな気持ちで来ていただけたらありがたいです。」

 
マスターの言葉のとおり、CIRCLE SOUNDSは誰でもウエルカムな音楽スタジオだ。通りすがりでも、スタジオに行くのが初めてでも、ひとりでも、マスターが優しく迎えてくれるので気軽に訪れてほしい(不定休もあるので、まずは電話03-3703-8651で確認を)。

 
 

 
 

| まとめ

 
マスターはこのCIRCLE SOUNDSを30年以上続けてきた。マスターのお話を聞いて、こんなにも長い間続けてこれたのはここで音楽を鳴らしたいというミュージシャンやバンドマンがいたからなんじゃないかなと思った。スタジオができて3日目くらいに来てくれたお客さんが今だに使ってくれていると聞いて、このスタジオに足繁く通いたくなる魅力の一端が理解できたような気がした。

 
花粉症だというのにマスターは外まで見送ってくれた。「俺、明日還暦になるんだよね」マスターがぽつんと呟いた。「じゃあ30年後に60周年のインタビューをやりましょう!」と冗談を言ってスタジオを後にした。UROROSは30年もやれるかな。30年の重みをひしりと感じた。

 
僕も久しぶりにバンドがやりたくなったよ。誰か一緒にやりません?

 
 


スタジオの前でマスターと。この看板が目印です

 
 

CIRCLE SOUNDS 料金表


※料金は2019年5月現在のものです。詳しくはCIRCLE SOUNDS公式サイトをご確認ください

 

CIRCLE SOUNDS アクセス

〒158-0083
東京都世田谷区奥沢6-21-11 大明産業ビルB101
TEL. 03-3703-8651

東急東横線・大井町線 自由が丘駅 徒歩6分
東急大井線・九品仏駅 徒歩3分

 



 
HAPPLE

ロックバンド・いなかやろうのメンバーにより2010年に結成。2011年に土岐佳裕、ばんどうたろう、斎藤麻美の3人編成となり、歌、コーラス、ギター、ピアノ、キーボー ド、シンセベース、ドラムを3人で演奏するスタイルを確立する。2013年5月、ポップを全面に打ち出した1stアルバム『ドラマは続く』をMine’s Recordsより発表。
2015年9月、プロデューサー兼エンジニアにA×S×E(NATSUMEN,ex-BOAT)を迎え、全曲ラップ入りの2ndアルバム『Three to 2,1』を同レーベルから発表。リリース後は国内や台湾のフェス/イベントにも精力的に参加し、各地で好評を持って迎えられる。
2017年7月、新レーベルCIRCLE SOUNDS RECORDSを立ち上げ、ライブでお馴染みのサポートメンバー(プルルタ・和田大樹)と共に作り上げた絵本付き3rdアルバム『ハミングのふる夜』を発表。
都内を中心にライブ活動を行なっている。

http://happlemusic.com
https://twitter.com/happlemusic
https://www.facebook.com/happlemusic/

 



 
きたはらふひと(フニャ院長)

特に波風も立てず猫と犬と平穏に暮らしているUROROSの編集長。廃病院パーティーの院長(代表)でもある。こんな体格のくせして最近スケボーを買って、その後すぐにPennyも買って、毎日のように畑の農道を行ったり来たりしている。でもというか、やっぱりというか、転びまくりで生傷が絶えないらしい。何か新しいイベントを立ち上げたいと密かに計画中とのことですよ。

https://twitter.com/kitaharafuhito
https://www.instagram.com/fuhito.necott/

 




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