年末特集「インディーズバンドと、MVと」- 634noHzから紐解くMVの未来 –
第三部はこれまでと趣向を変えて、数多くのMVを紹介してきた「東京PVコレクション」「売れる前から、知ってたし」「mvage」に、『ミュージックビデオの未来』を語り合ってもらいました。
きたはら(司会) 皆さん、自己紹介をお願いします。
東京PVコレクション(以下、東京PV) ミュージックビデオ好きが高じて、オススメの作品をTwitterで紹介したりしている「東京PVコレクション」です。昨年から更新が滞っておりますが、2018年から心機一転!活動再開する予定です。
売れる前から、知ってたし(以下、売れる前から) Twitter上で音楽紹介的な事をしております、「売れる前から、知ってたし」と申します。きっかけを求めるアーティスト、リスナーが出会える場所を作りたいという想いから色々と活動しております。
mvage 邦ロックのMVを平日・日替わりでレビューするサイト「mvage」と申します。たまーに「バンド×MV監督お見合い大作戦」や「持って帰りたいフライヤー部」と言った企画も行っています。
きたはら ミュージックビデオが果たしている役割について感じていることを教えてください。
売れる前から 本来、音楽の持っている力をブーストするためのツールであると考えているのですが、最近ではSNS上で音楽を拡散するにあたり、最低でも必要なモノになってきている印象があります。
どんなに曲が良くても、(それなりにちゃんとした)MVがないと注目されないのではないか…という気はしています。
mvage YouTubeのサービス開始以降という感じになってしまいますが、バンドの楽曲プロモーションにおいて一番大きい武器という気がしています。SNS上でもクリック一発で伝えられますし、リスナー側からしても友達に「こんな良いバンドいるよ〜」と伝えるときにシェアするものと言えばYoutubeのリンクですし。潜在的なリスナーをCDやライブといったフィジカルなものに繋ぐ役割をしているように思います。
東京PV ひとつは、アーティスト自身の世界観を表現するイメージビデオとしての役割があると考えています。既存ファンやファンになってくれそうな人達に対するアプローチ重視といいますか。もうひとつは、逆に新規ファンを増やすための飛び道具的な役割があると考えています。YouTubeやtwitterで見て→気に入って→ライブに行く→ファンになる、という流れはファンを増やすスタンダードな方法ですし(上手くいくかは別として)。
個人的にはこの2つの路線をバランスよく展開していくことが、アーティスト活動に良いサイクルを産んでくれるのではと思っています。
きたはら MVがこれまでどのような変遷をたどり、また今後どのように進化していくのか考えを教えてください。
東京PV YouTubeやスマホの普及でMVありきの時代になりましたが、MVを作る敷居が下がったことで作品全体のクオリティの底上げもされてきたと思います。しかしこれにより明確になってしまったのが、有名アーティストの作品とインディーズアーティストの作品との差です。
また、具体例は伏せますが、インディーズアーティストの作品に似たような内容・表現のものが増えたのもここ数年のことじゃないでしょうか。
差については予算やクリエイターの存在が大きいのですが、「より多くの人に見てもらいたい!」という気持ちで作っているのであれば、似た内容の作品を作る意味はないと思います(様々な妥協の上でそうなっているとしても)。有名アーティストの作品に勝つ必要はありませんが、そもそもの予算はもちろん、思いつきのアイデアで有名クリエイターに勝てるはずがありません。
ですが、それらに対抗しつつ埋もれない作品にできる武器こそが、アーティスト自身の世界観ではないかと思っています。この世界観を膨らませて表現した作品が今後のスタンダードになれば、もっともっと面白い作品や素敵なアーティストと出会えるきっかけも増えるんじゃないでしょうか。
売れる前から 10〜15年程前、主にスペースシャワーTV等から情報を収集していた頃は今ほどSNSや動画配信サービスも普及しておらず、MVに関しても「ある程度売れている人達が、CDの宣伝の為に作るビデオ」というイメージがありました。
現在では誰でも動画を発信できるようになり、随分身近なものになったなと感じています。誰でも制作/発信できるようになったことで、360℃カメラやVR等の技術を使ってみたり様々なMVが出てきていますし、「よくあるMV」に集約せず進化を遂げていってほしいなと思います。
mvage マイケルジャクソンが映画顔負けの豪華なドラマ仕立てを作って現在のMVの流れを組み立て、ミシェルゴンドリーやスパイクジョーンズといった作家性の強いMV監督が名を上げ、その後CG全盛の時期に、OKGOのカウンター的にフィジカル&アイディアで勝負するMVがYouTubeを中心に大ブレイクし、今のカジュアルにMVを楽しめる時代を作り上げたのではと思います。
ここ日本でも歴史を彩ったMVが古今問わず多数ありますが、特に去年は凄かったと思います。岡崎体育の「MUSIC VIDEO」やlyrical schoolの「RUN and RUN」、ゆるめるモ!の「はみだしパラダイス」など、新しい視点や技法を活かした傑作MVが連発され、そこまでインディミュージックやMVに興味が無い人にまで「今のMVって面白い」ということが一層認知されたように感じました。また、NHK・Eテレで映像の技法を紹介する番組「テクネ」が定期的に放送されているのも、裾野を広げている一要素とも思います。
次世代のMVがどうなっていくかと言えば、ケーブルTVやPC、スマホといった新デバイスが普及しない限りは、楽曲とアイディアと世界観のブレンドの配合が変化するだけなので、そこまで劇的には変わらないのかなと思います。
もしあるとすれば、サウンドクラウドがサービスを停止?することに伴って、インディーズバンドがよりカジュアルに音源をYouTubeにアップロードする必要にかられると思うので、そのあたりの、今までMVと縁遠かったアーティストまわりでの変化でしょうか。
例えばバンドの楽曲を解析して「ヒキの画を00秒、00カット映してください」「ドラムの手元を2パターン映してください」と、解説に従ってスマホで撮影してくと、MVがすぐにできちゃうアプリとか。MV監督にお金を払う余裕も、自分たちで作る技術もないバンドが助かる仕組みが求められるのではと思います。うーん、お金儲からなさそうですねそのアプリ(笑)
きたはら mvageが行なった「MV監督×バンドお見合い大作戦」についてどのように思われましたか?また、今後どのような企画があれば良いと思いますか?
東京PV 企画を考える人間の感想としては、ちょっと悔しかったですね(笑)。若手アーティストが抱える問題として、「MVを作りたいけど誰に頼んだらいいかわからない」というのがありますが、それを解決する場が提供されたわけですから、若手バンドはどんどん参加すべきだと思います。
同様に、先述した「アーティスト自身の世界観」を持っているけどその膨らませ方がわからないといったケースでも、第三者と話すことで意外な表現が見つかると思います。MV監督側にとっても、温めていたネタの活用や表現の実験の場としてはもちろん、アイデア交換の場としてありがたいのではないでしょうか。
元々、音楽と映像は親和性が高く、また、昔からミュージシャンとアーティスト(芸術家)は互いに刺激し合ってきたはずですし、共に高め合っている方達もたくさんいます。「MV監督×バンドお見合い大作戦」には、そういった縁や出会いに恵まれる場になっていただければと期待しています。
今後こんな企画があったらいいな~と思うのは、若手映像作家限定の映像コンペです。少し企画を考えていますが、「閃光ライオット」のミュージックビデオ版のような舞台があると、モチベーションや新しい才能の発見の場になるのではないかと思います。
売れる前から 本件に限らずですが、こういったマッチング企画がもっとあったらいいのにと思っていた事もあり、とても良い企画だと感じました。せっかくの面白い企画なので、もっと大々的に告知出来たらいいのではないかと思います。
MVを録りたいけど、誰に頼めばいいのか分からない…どういう手順を踏めばいいか分からない…と思っている若いバンドも多そうですし。MV制作までの流れ(費用感やスケジュール感)を説明するような講習などを開催してみても良いのではないかと思います。
mvage 我ながら「いい企画だなぁ」と思います(笑)。若手バンドの方とお話していると、バンドとMV監督が出会える場ってあまり無いみたいで。じゃあ作ったらいいやと思って始めたやつですね。今回その企画に参加していただいた634noHzの、アフガンさんとパラダイスさんのMVが公開され、こうしてお話をする場を設けていただけてとてもうれしいです。
企画内でこだわったのは相場の明記です。オファー自体はメールやDMでできるとしても、費用が幾らかかるか/もらえるかが明確でないとなかなか声をかけづらいと思ったので、無理を言って監督にもバンドにも金額を書いていただきました。まだまだ募集してるので、監督、バンドともにぜひご応募お待ちしております〜。
企画は、全然思いつきなんですけど、クライアントと監督とバンドを繋げて、CM的にミュージックビデオを作る企画やりたいです。「○○をPRするMVをタダで作ろう」みたいな。あとは、お見合いの第2弾に需要があれば…(笑)
きたはら 音楽メディアは、音楽に、またMVに対してどのような役割を果たしていると思いますか?日々のサイトの運営についても感じてることなどあれば教えてください。
mvage メディアの属性にもよりますが、私のところのようなレビューサイトは徹頭徹尾キュレーターであるべきかなと思います。日々量産されるMVを自分とこのフィルターにかけて選り分ける精度を高めて「このサイトに載ってる音楽なら時間を無駄にすることは無いかな」とユーザーの信頼を得られたらうれしいです。
そして、自分のフィルターを押しつけている、ということを日々自覚しながら皆様にオススメをしていければと考えています。
売れる前から 音楽の母数が増えてきており、「何を聴いたいいのか分からない」と感じているリスナーにとって「選択肢の提示」という意味でとても重要な役割を果たしていると思います。
どこのサイトでも同じニュースを取り上げていたり、有名なサイト(キュレーター)が紹介した音楽だけが流行るという構図は面白くないですし、「売れている/売れそうな音楽」を知るためのサイトは既存の有名な数サイトで事足りていますし。
独自の視点で突き進んでいる様々な色を持った音楽メディアサイトが認知されてほしいなと思っています。
東京PV 紙媒体にしろweb媒体にしろ、音楽メディアは読者に紹介するという点では良くも悪くも作品の第一印象を与えてしまう立場にありますので、影響力がある媒体ほど慎重な紹介が必要なのかなと思います(もちろんメディアの力で流行が作られるということはありますが)。
逆に昨今そのカウンターとして登場しているのが個人キュレーター的な活動で、その人なりであったりセレクトするセンスであったり、そこに共感した人達からの支持を集めていますね。
ただ、両方に言えることですが、その人(媒体)が発したことに対して脊髄反射的に「いいね!」と思うようになってしまうのも、健全ではないと思います(「東京PVコレクション」として活動が停滞しているのも、この部分のさじ加減についての答えが見つかっていないからなのです)。
音楽業界に限らず商品やサービスを紹介するメディアが存在する以上、続いていく悩みだとは思いますが、答えを見つけたいと思っています。
きたはら みなさん、ありがとうございました!
史上最小の音楽フェスタ【東京PVコレクション(TPC)】では、ピックアップしたPVをTwitterで紹介したり、映像作家をゲストにお招きするPVトークイベントを開催したり、ライブイベント【ネオ東京ナイト】も開催しています。
「きっかけを求めるアーティスト/リスナーが出会える場所を作りたい」という想いを胸に活動中の音楽紹介(?)アカウント。無料配布CDの郵送代行、コンピ制作やイベント企画等、手段を選ばず活動中。
「mvage」は邦ロックやインディーズのMV、PVを中心に紹介する動画キュレーションメディアです。定点観測感覚で、平日日替わりでアツいバンドをレビューしています。皆様のインディーズライフのお役に立てれば幸いです。 |
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