2020-01-19 21:00

青木慶則 EP『冬の大六角形』発売! 青木慶則×安田寿之×伊波真人 鼎談インタビュー

写真左から、安田寿之さん、青木慶則さん、伊波真人さん

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| 風景から見えてくる言葉と音

 

   (笑) 伊波さんの詞には、青木さんが書きそうなモチーフが多く出てきますよね。例えば「大きな川を越えれば」など、青木さんのお住まいである川崎市近くの多摩川を彷彿とさせますし、「カレーの鍋で 月桂樹の葉が香る頃」なんてちょっと「お引越し」の「夕飯を嗅ぎ分ける子供」の家の中側の景色のようにも思えます。やはりその辺りの意識はされたのでしょうか。

 
伊波 めちゃくちゃ意識しました。というのは、2人に共通するパーソナリティーを出せるといいかなと。青木さんも多摩川がある川崎にお住まいですが、僕もちょうど近くに大きな川がある郊外の街でずっと育ってきたんです。そういう2人の中でリンクする風景をモチーフにしたいなと。

 
青木 そう、実はこれは数回話し合ってて。大きな川をテーマにそこから広がる詞にしていいですかと聞かれたので、OKと。で、実は安田さんも大きな川に繋がりがあって。

 
安田 そうなんです。今、多摩川の割と近くに住んでいて。

 
青木 だから結構みんな、心の中にもっている景色が似てるんじゃないかなって。

 

   ここでもまたシンクロしたんですね。

 
青木 ちなみに今回参加してくれたギターの石本くんの家も、かなり多摩川に近くて、僕と高校の学区が一緒という(笑)

 

 

安田 あの辺りは視界が広いですよね。毎日散歩してた時期もあったんですが、やっぱり夕日が季節によってグラデーションによって変わったりしているのを見ていると、曲作ってる時にちょっとそういう風景が出てきますよね。それが取り込まれて、何か風景画のように出てくるんですよ。

 
青木 作ってるスタジオからは何も見えないけどね(笑)やっぱり、人間て目で見るだけじゃなく、心の中からも見てるものが絶対あって。面白いですね、トラックを作りながら景色が見えるという……。

 
安田 やはり心を広々したいというかそういう理由で作ってるところもあるので。そういう時に、せせこましい風景よりは、と。

 
伊波 「明けゆく空に」のイントロのシンセを聴くと、すごく朝の光の映像が浮かぶのですが、音作りをするとき、そういう映像を思い浮かべながらされますか?

 
安田 ストリングスの音ですか?

 
青木 安田さんはストリングス、僕はパッドシンセをやっていて。お互いの音色が組み合わさるようにつくることには結構こだわりましたよね。

 
安田 テクニカルなところと想像のところが両方入っている音になるんですけれど、あの曲は凄いシンプルなコード進行で、差異を付けていったものを鳴らすものが必要だと思って。ストリングスでずっと同じように鳴ってるだけだと面白くないので、夕陽のグラデーションじゃないですけど、ちょっとフィルターかけてくぐもった明るさだったりとか。ちょっと全体を凄い長いスパンで、細かくじゃなくて、ながーく変化をつけました。

 
伊波 音色を選ぶ時に、この音ちょっと朝っぽいなとか、そういう基準で選ぶこともありますか?

 
安田 そうですね。それもありますね。

 
青木 今、安田さんはさらっと簡単そうに言ってるけど、曲全体で緩やかに調光をかけていくみたいなことって、すごく独特なんだよね。普通だったら短いスパンで、ちょっと聴いただけでもわかるように調整するんだけど、安田さんの曲は、全体の4分間で雰囲気が味わえる。曲を聴いていて、1番はちょっと曇ってたけど、2番では晴れてきたとか。そういうことをトラックづくりだけで仕掛ける。そんなことをできるのは安田さんだけなんじゃないかなと僕は思ってます。

 
安田 基本的にはシンセをアディショナル(=追加)して欲しいという注文なんですけど、極端なことをいうと、何もやらないって言う選択肢もあったんですよ。青木さんは1人でできるわけだから、やることないなと思ったらそう言おうかなと思ったけど(笑)

 
青木 千利休みたいな(笑)

安田 今回僕はプロデューサーではないですが、究極のプロデュースって何もやらないってことですよね。けれど今回はやることを一生懸命考えてみたらあったので、ちょこっとだけやりました。まあ、僕なんか全然いなくても完成してたんですよ。

 
青木 いやいやいや。

 

   とはいえ、実際青木さんは作詞家でトラックメイカーでもあるので、本当は1人でもできることかもしれないことを、今回はあえてお二人にお願いすることがあったわけですよね。その狙いはなんだったのでしょうか。

 
青木 伊波さんに関してははじめに話した通りです。安田さんは、やっぱり僕には出来ないエッジの鋭さが如実にあるんです。僕はついつい柔らかくなっちゃう。あとは、さっきも言ったように、安田さんは変化のつけ方に規則性がありそうでないというか。電子音でありながら、人間の感情の起伏みたいなものになっているんです。1つの音色に感じられても、実はそれを表現するために3つや4つの音が使われていたりもするし。そういうのが面白いなと。

 
安田 ハタからそう言われると面白いですね(笑)

 

 

青木 普通のトラックメイカーだとたぶん、道具が変われば自然と変わるのかなって。例えばPro Tools(音楽編集ソフト)で作るんじゃなくて、実際のアナログシンセとかで、つまみを使ってやっていけば、人間っぽくなるかもしれない。パソコンの画面上だとどうしてもそこをサボったり、ある段階で区切りを付けてしまう。でも、安田さんの場合は、パソコンでやってるのに、常に手で何かつまみをいじくっているような肌感と、追求をやめない姿勢を感じるので。そこを凄い大事にしているのかなって。

 
安田 僕の場合は全体を見て、これはやっぱりあった方がいいですよと提案したり、あとは言われてないけどこれはちょっとやったほうがいいかな、ってことを余計なお世話でやったりとかします。というのも、やっぱりどんな気持ちで作ったのかな、というところで追いつかないといけないなと思っていて。僕の今回の仕事はアディショナル的なことなので、アウトプットとしてはそんなに多くないかもしれないですけど、音ひとつ入れるにも、なんでこの曲ができて、こういう歌詞があって、こういうアレンジがあるんだろうって考えちゃう。音があってるからとかのサウンド的なことだけじゃなく、深く考えて作るので……だからすごく時間がかかりますよね。

 
青木 やりはじめてから?

 
安田 そう、やりはじめて、ああでもないこうでもないといろいろ考えて、だいぶ捨てるものもあるし。

 
青木 安田さんに依頼するのは、なんだかカウンセリングに近いところがあるんですよ。

 
安田 プロデュースを頼まれているわけじゃないから、もちろん出しゃばっても仕方ないんですけれど、でも、僕がやった方がいいかどうか、ってレベルから相談してもらったほうがよくて。いや、これちょっと僕いなくてもいいよっていうところもあるし、これだとちょっとやれるかなとかね。

 
 

| さらっと作った曲は強度がある

 

   以前安田さんと石本さんと3人で何かやりたい、というお話しをされてたことがありましたが。

 
安田 一回3人で、2年前に飲んだんですけど、どうしたもんかって思ってたんですけれど、「冬の大六角形」聴いて、ああもうできてる、って。もちろん青木さん作ではあるんですが、このちょっとした雛形ができているというか。僕と石本さんが曲書いて同じようにやればなんかまとまった感じになるかなって。

 

   2017年の秋に「HARCO展 – 巻き戻す時間・ハルコの20年 -」(東中野aptp)でのスペシャルライブを観に行きましたが、ああいったもの、また観たいです。

 
青木 あれはかなり面白かったですね。基本が安田さんと僕の2人で、石本くんが1、2曲参加するっていう。1曲が5分あったとしたら絶対必ずその前か後でもう5分ほど即興をやって、あとはその繰り返しっていうライブで。

 
安田 バランスも上手くとれてたしね。ライブだと結構電子楽器って音も小さくて、歌みたいにダイナミクスがないんで、負けちゃうんですね。だからライブはもっと考えなきゃなとは思っています。もっとシンプルに、3人で何やってるかをわかるようにしたい。
プロダクションとライブって個人的には全然違うものになってきて。ライブでちゃんとそれはそれで面白いことを分けて考えてしようと思うと、考えすぎてできなくなっちゃって。最近ちょっとサボってますけど(笑)青木さんはその点重なってやってますよね。

 
青木 あ、でも音源つくるときはライブのことをまったく考えないで作ってますよ。

 

   安田さんのTwitterで「ライブを想定してループを組みやすいようにコードもシンプルにした」って青木さんが仰っていたという話をみかけましたが。

 
青木 ゆくゆくは、お客さんの目の前で一つずつサンプリングしていって、ループ重ねてから歌うってのはやりたいなと思っています。今回、1曲目の「冬の大六角形」をつくるときにも、実はルーパーっていう、いわゆる脚でペダルを踏んで組んでいく形で作りました。何層にも重ねたり、何番目かの音を消したり、いろいろできるわりと複雑なタイプのルーパーを足元に置いておいて、それをやりながら曲を作って。そういうのをやったのは僕は初めてだと思います。すごく面白かったですね。

 

   HARCO時代のライブでは、度々ルーパーを使われていたような気がします。

 
青木 うん、でも基本的にライブでしか使ってなくて、曲を作る時はあんまり使ったことがなかったんです。でも、今回使ってみたら凄く面白くて。それから去年の9月ごろに、バンバンバンって一気に3曲ぐらいできて。6曲目は詞先なので、レコーディングの寸前に作ってますね。だから今回の6曲のうち4曲は、実はレコーディングの一か月前に作った曲ばっかりっていう。去年はそれ以前にもたくさん曲を作りためてはいたんだけど、今回そういった曲はほとんどここに入れてなくて。ストックしてたのは「福寿草の花」と……あと「ゴールドフィッシュ・サブマリン」はちょっと前ぐらいかな。

 
安田 でもその勢いみたいなものが、すごく凝縮されてるように思えますよね。ああでもないこうでもないってやるのももちろんいいんですけど、えいってやったものが詰まってるのがね、いいと思いますね。ふっと降りてきた曲って、強度があるんですよね。

 
青木 モノ作りってそういういろんな角度からの面白さがありますよね。

 
安田 僕の場合は、ライブでやりながら曲を育てていくみたいなのをやった時期もあるんですけれど、人前でやるといいところと悪いところが分かるんですよね。それで直していってやっとレコーディングするっていうことをやったことありました。こうやってばっと作って世に出すというの良さもあるなということが、勉強になりましたね。

 

   今回の6曲ってバリエーションに富んでいる感じがします。ちょっと実験音楽っぽかったり、「福寿草の花」なんかはわりとゴマサバに入ってそうな感じもしましたし。意外な感じがしたのは「ぼくときみの第六感」がちょっと今までにない、セクシーな曲というか。あまりそういう曲って今まで見たことなかったので。音も言葉も、前作とはだいぶ作り方に変化があったのかなと思えました。

 
青木 僕は性格はまあまあ真面目な方なので、やっぱり歌録りするときはちゃんとこの日に歌うって決めて、テイク10ぐらいまで録って、納得いくまでじっくりセレクトするっていうのを信条としていて。でも今回はレコーディングに入る前から、さっと1回歌ったのをそのまま本番にしちゃうみたいな、「仮歌=本番」ということをあえて何曲かでやろうと思っていて。この曲もそんなノリで歌ったんです。

 

 

   どうしてそのような感じにしようと思ったのでしょうか。

 
青木 完璧主義になるんじゃなくて、昨日できたばかりの曲を明日みんなに聴かせるぐらいな。そういう時ににじみ出る歌の良さって絶対あって。

 
安田 だからリラックス感があるというか、聴きやすいですよね。でも、ちゃんと深みがある、そのバランスがいいじゃないですかね。

 
青木 多少ピッチが悪かろうがもういいやって。歌詞が間違っててもいいかな、くらいに(笑)

 
伊波 そこはちゃんとしてください(笑)

 
安田 (笑) あとはコードがシンプルって話だと、「冬の大六角形」だと、イントロのメロディはなかったんですよね、コードがあって歌がはじまってって。「明けゆく空に」のギターのリフは石本さんが考えたって言ってましたけど、それがすごくよくて。すごく、やりやすかったんだろうなって思いますね。自由度が高くて。

 
青木 石本くんとは立ち会ったり立ち会わなかったりで。確かあれは後から追加で頼んだので、遠隔でやってもらったこともあって、彼が中心となったのかなって。ちょっとここだけ直してって電話すると、一からもう一回ちゃんと、より良いテイクを弾いてくれるんですよ。

 
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