ビイドロ 青柳崇(Vo/Gt)インタビュー。”氷河期と灯台とおまじない”
2019年1月に4年ぶりの音源となるシングル「氷の砂漠」を、さらに3月22日にはシングル「氷河期がやってくる」をリリースしたビイドロ。
今回のインタビューはその二作をはじめ、ビイドロの最近の楽曲に頻出する「氷河期」と「灯台」というモチーフについて、青柳崇(Vo/Gt)さんにお話を伺ってきました。
ソリッドな音像で現代の息苦しさを描きつつ、それを少しでも緩めるための希望が添えられているビイドロの最新曲群は、まさに誰かのちょっとしたおまじないとなり得るようなものでした。
interview by ふじーよしたか
早速二曲聴いておりましたが、前作のアルバム『ひろばとことば』から比べても今回はやはり新機軸を見せてきた感じで。
青柳 録音エンジニアだったりマスタリングも違うんです。ゴッチさん(ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文)が低音に関するツイートをしていらっしゃいましたけど、僕らも普段そういうことを思っていて。アメリカのヒップホップをよく聴くんですけど、ロックバンドと並べて聴いたときにロックバンドの方が単に元気無くなっちゃうような感じがあるんです。そこらへんを今回はうまく作りたいなって話をしていて、この二曲では低音を豊かめに出してくれたんですよね。
ロックバンドでもより良い低音を求める流れというか、もっと良い音が出せるはずだという流れも聞きます。
青柳 結果的にばっちりファットな音になったので良かったなぁって。メンバー全員の総意として「このくらい低音が出てるものを作りたいよね」ってなったんです。普段聴いてるものがそうですからね。
| 抗いようのない事象=氷河期
「氷河期」や「灯台」と印象的な言葉が、最近の作品で連続して出てきていますよね。それぞれの持つイメージについて教えていただきたいです。
青柳 そうですね。その二つの言葉はあえて使っていますね。まず「氷河期」なんですけど、三十代後半に差し掛かるタイミングで、自分の感覚や自分の見ている世の中がとてつもなくストップし始めてる感じがして。
ストップ……。
青柳 年を取っていくことにおけるネガティブというか……ミドルエイジクライシスですよね。笑
例えば、ハツラツとした曲が似合わなくなってる自分を感じたり、がむしゃらにやればやるほど届かなくなる感じもするし、かと言って淡々と余裕でやってたらどんどん落ちる感じがするんです。そうするとどの場所にスイートスポットがあるか見えなくなって。
今までの感覚が通用しなくなってくるというか。
青柳 さらにそのタイミングで周りの十歳上くらいの人たちが、様々なトラブルがあったりして人生の危機に直面していたんです。そういう人生の後半に降り注いでくる抗いようのない事象を「氷河期」と呼んでいて。配信でリリースしている「氷河期は踊る」って曲はその時に作ったもので、そんな氷河期も踊るものだと信じないと抜けられないと思って出来た曲なんです。タイムカプセル的に十年後くらいの自分に向けて、「辛くてもポジティブな部分を見出さないとダメだぞ」と。
十年後、氷河期に陥ってしまうかもしれない自分に向けて。
青柳 まず確実にやってくるのが身体の衰え。身体が言うことを聞かなくなってくると心もそうなってくる。自律神経に良いからハーブティーにこだわって……とか、お守りやおまじないのようにそういう身体に良いものを持つ意味が今になって分かったんです。そういう風にひとつひとつが氷河期みたいになっていくことに対して、自分の中で何かを作っておこうと思って、その一番大きいのが音楽で作っておくことだったんですよね。
その人にとってのハーブティーがもしかしたら自分にとっての音楽になるかも知れないと。
青柳 そうですね。RCサクセションの「ラプソディー」って曲があって、“ダイジョブ ダイジョブ きっとうまくやれるさ ”って歌詞があるんですけど、それで二十代の一番辛い時期を乗り切った過去があったんです。
そういうことを自分の音楽でもやりたいと、なんとなく漠然とある不安に対しておまじないを作った感じです。
| 希望の光なのか迷惑な光なのか、むしろそれをミラーボールとして踊るか
青柳 ツイッターを見ても文脈ではなく単語を捉えて炎上したり、日本の政治でも謝罪したら無いことになったりとかあるじゃないですか。物事の価値が二元化してしまって、他人の感じた心の傷に対して冷たい世界っていうのが僕の中の氷河期のイメージですかね。
『ひろばとことば』を聴いていても、この人怒ってるんだろうなぁ……という感覚もありました。
青柳 怒ってますよね、やっぱり。笑
でも氷河期は全てを凍らせてしまうけど、実はそのとき人間は大陸移動をしていて、似たような遺伝子を持った人たちが全然離れた場所にも存在しているというイノベーションもあったんですよね。そう考えたら逆境を利用して何かポジティブな変化が起きるかも知れない!っていうところまで含めて氷河期というモチーフは気に入ってるんです。
……実は氷河期の曲が七曲くらいあるんですよ。笑
そんなにあるんですか!笑
青柳 それでその全部に「灯台」を登場させてるんです。灯台の意味合いって見る人によって違くて、遠くで灯台の光を必要としてる人がいたらそれは救いの光だと思うんですが、ひょっとしたらそれは近くに住んでる人にとっては、毎晩眩しくて寝れないっていうものかも知れない。混迷の時代において、善意の在り方って一辺倒なものじゃないっていうことのメタファーになってるのかなと思うんです。それが希望の光なのか迷惑な光なのか、むしろそれをミラーボールとして踊るかっていうところに、その人の人生の生き方が問われるような気がしていて。だから結構使ってるんです。
まさにミラーボールとするくだりが「氷の砂漠」にあります。今おっしゃっていたような混迷の時代が「氷河期がやってくる」ではシリアスに描かれてますが、「氷の砂漠」は語り手が若くてやる気に満ち溢れてる感じがしますよね。それこそ少年漫画の主人公みたいな。
青柳 そうそう!主人公感ありますよね。これを作り始めたときに長男が五歳くらいだったんですけど、すごい気に入ってくれて。じゃあこの子が聴いて良いと思える曲に仕上げていったらどうなるかなって思ったんです。“超えられないものはない” とか “どうにでもなるぜ” とか今までじゃ言えなかったんですけど、歌の中でくらい言えなくてどうすると。
そうですね……。こんな世の中ですし……。
青柳 さっきのRCサクセションの歌詞もそうで。”きっとうまくやれるさ“っていう言葉自体は未来を見据えてもいないし、ただ痛切にそう願ってるだけなんだけど、それで自分が救われた過去があった。だから “どうにでもなるぜ” って言葉がちゃんとはまるような曲を作りたいなって思えたんです。 “どうにかなるぜ” だと無責任だけど、 “どうにでもなるぜ” ってちょうど良いリアリティだなって自分の中で思って。
まさにそんなポジティブなエネルギーに溢れた曲だったので、聴く人によってはそれこそ灯台のような曲になるんじゃないかって思います。この灯台を目印にずんずん進んでいく人の絵まで想像出来る感じがして。
青柳 ちゃんとポジティブな曲って今までほとんど無かったんです。ポジティブにしてもちゃんとビイドロ節になるようなものが作れたらと、これは僕にとって大きなトライアルだと思って作ったんです。だから珍しく歌詞とアレンジにすごい時間がかかりましたね。
| 氷河期って灯台いらないじゃないですか
今回の二曲を聴いていて、灯台も氷もそれぞれ堆積する時間の概念があるなって思ったんです。灯台は時間の流れと共に光が動くし、氷も水が凍って重なっていく……と考えるとどちらも時間が堆積しないと出てこないものだなって思って。
青柳 うわー!すごい解釈ですね!びっくりした。
もしかしたら共通して、過ぎていく時間というイメージが根底にあるのかなと思ったんです。
青柳 確かに!氷は溶けるにも固まるにも時間がかかるし……。本当だ!
灯台という言葉を使い始めたきっかけがあって。「氷河期は踊る」を作った一年後くらいにソロでライブをやって、自分の実力不足で上手くいかなくてとにかく落ち込んだときがあったんですよね。その次の日に家族旅行で江ノ島に行ったんですけど、ずーっと落ち込んでるんです、僕。笑
それで夜中に一人で散歩しようと思って、江ノ島の中の宿を出て片瀬江ノ島駅まで橋を渡って歩いていったんです。昨日の自分は悪くなかったっていうようなこと考えたりしてしまいながら。
うんうん。本当にそこまでずっと気にしてしまってたんですね……。
青柳 駅まで行って改めて江ノ島を眺めたときに、初めて島の中にある塔が灯台だってことに気付いたんです。それにすごい驚いて!あんなに素敵なところから歩いてきてたのか!と思ってなんかその瞬間に物凄い救われたんです。
「灯台の光は」っていう曲をライブでよくやってるんですけど、
“灯台の光が ひと回りする間に
なんだかとても たくさんのことを考えていた
でも灯台の光が もうひと回りする頃には
考えた たくさんを 全部忘れてしまった”
という歌詞があって、それはそのことだったんです。昨日のライブでの自分を自己弁護したい気持ちとか悔いてる気持ちとかを指していて。灯台を見たことによってそれが氷解して歌詞が書けたんです。
その光に救いを見出したんですね。
青柳 光が回ってくるたびに「ハイもうおしまいよー!」って記憶を全部なぎ払ってくれたみたいでした。そのまま灯台を見ていると、闇の中をレーザーみたいに抜けていったその場所にいろんなものが浮かび上がってそうで面白いって思ったんです。動物とか好きな人の顔とか嫌な奴の顔とか。
当たるのは一瞬だけど確実にそこにスポットが当たっていて、確実にそこには何かしらの人生があって、その道筋の一部に自分が浮かび上がっていたりして。それである種、灯台が僕の中の救いのモチーフになってるんですよね。
シリアスな氷河期モチーフの曲の中に灯台という救いの言葉をしのばせるのもまさにおまじないって感じがします。
青柳 実際に僕はそれで救われたし、踊るような気持ちになって。その灯台のふもとに住んでる人にとってその光は意味が無いかも知れないものですけど、それも含めて素敵だなって。ただずーっと回ってるもの。心臓みたいな感じですよね。世界の内臓っていうか。でも氷河期って灯台いらないじゃないですか。
あっ、確かに!船が動かないから!
青柳 そうなんです。自分でコントロールが出来ないようなこの世の中で、無意味にただ回り続けるだけだとしてもいいんじゃないかって思えたんです。海が凍って船が動かないなら灯台が回る必要もないっていうのも実は違くて。「船は止まっても乗組員が氷の上を陸地目指して歩くのに必要なんだから回さなきゃダメでしょ!」って言える人が必要だし、きっと現代にはそういう目線が必要なんですよ。そういう気持ちが強くあって、それで曲にしたんです。
あぁー!合致しました!
青柳 何事にも意味はあるし、転じて言えば全部無意味だし。
それをどう面白がれるかということですか。踊れるかどうか。
青柳 そう!必要なものなんて人それぞれ違うからこそ、そんな一辺倒に決まるわけないですってことですよね。
ビイドロ「氷河期がやってくる」
発売:2019年3月22日
※各種サブスクリプションサービスで配信中!
収録曲:
1.氷河期がやってくる
2.氷河期がやってくる(荘子it家REMIX) (feat. 荘子it from Dos Monos)
ビイドロ「氷の砂漠」
発売:2019年1月7日
※各種サブスクリプションサービスで配信中!
収録曲:
1.氷の砂漠
邦楽インディーズレコメンドブログ「音楽八分目」とデイリーレコメンドタンブラー「Ongaku Wankosoba」を使って、レビューやインタビューやライブイベントをなんやかんやしています。 http://hachibunme.doorblog.jp(音楽八分目) |
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