特別対談『青葉市子 × Mangasick』(日本語)
| 言語外の感覚について
M:ここまで話して、私たちは青葉市子さんが先ほど話した「説明しなくても伝わる」という事なんですが、実は私たちがガロ系の漫画を読んでいる時も似たような感覚があるんです。私たちの日本語は全部の台詞の内容をわかるほどではないのですが、なので例えば、鈴木翁二先生の作品や70年代の劇画漫画を読んでいる時は、実際いわゆる物語を読んでいるというよりは、一つの絵が表す……
青:雰囲気。
M:私が最初に鈴木翁二先生の作品を開いた時、宇宙に入って行くような感覚で、流れ星の様なものが見えたんです。ただ、台湾人は比較的起承転結がハッキリしている物語が好きなんです。楽曲で例えるなら、台湾人が一曲の歌を好きだと言う場合、大体「歌詞」が好きという事を指しているのですが、一曲の歌の中にはもちろん歌詞だけではなくて歌詞では表せない気持ちが曲にはあります。私たちが漫画を読む時は物語と絵の関係まで感じています、もしかしたら音楽を聴くときに歌詞と曲の関係を感じる事に似ている所があるかも知れません。私たちのこの先の課題は、台湾の読者に向けてこの種の漫画の面白い所はどこなのか?という所を説明し続けることです。
青:ここは台湾の人にとって、日本のビレッジバンガードみたいな所なのかな?
M:(笑)高雄にもビレッジバンガードの支店がありますよ、だけど日本とは全然違うと思ってます。
青:ここはもっと刺激が強いかな?
月:けどここに来たら……
青:なんとも言えない安心感。
M:謝謝~~~(泣)。
青:避難所みたいだね。疲れた時もここに来れば平気そう。
M:謝謝~~~この本棚をみて驚く日本人は少なくないです。だけど実際作品を読んでから買ってくるのは難しくて、表紙と中のページ構成が私たちにとって衝撃的な作品を選んで買ってきます。
青:日本人として、私もチラッと見ても個性がなかったり、または説明書きが細か過ぎる作品はあまり好きじゃないです。私の好みの問題だけど、今日マチ子さんも好きだし、近藤聰乃さんも好きだし、市川春子さんも好きだし、彼女達の作品は説明っぽくなくて、ただ物語の舞台の中での感覚を描いていて、撮影と同じ様な感じ。だから言葉が通じなくても感じ取れるところがあるの。
M:まるで日本人と台湾人の性格の違いみたい(笑)。台湾人は「説明」を欲しがるんです。この作品、この絵、この歌の背景にはどんな意味があるのかを聞いて、明確な答えを期待します。なので台湾人の読者の中には私たちの日本漫画は一切読まない人もいます。「日本語がわからない」事が大きな原因ではなく「漫画がわからない」、といえるかも知れません。だけど、多くの台湾のクリエーターがここに来てこれらの日本漫画を読んでいて、それは本当に嬉しい事です。
| ZINEと絵を描く事について
M:あと、青葉さんの描く絵は面白いですね。
青:(笑)
M:どうして「剃刀乙女」の初版に小さな絵本を付けようと思ったのですか?その後はもうやってないみたいですが。
青:あの時絵本を描いたのは、描くのが楽しかったからたまたま趣味で描いていた絵本を当時のレーベルの人が見て、良いねって言ったの。
M:(笑)
青:それで初版限定の付録にしたの。あと、一曲書く事を勧められて、〈光蜥蜴〉を書いたの。
M:ZINEは作りたいと思いますか?
青:まさにちょうどなんだけど、今年の6月に「人zine展」というイベントに参加するの。「人zine」の日本語の発音は人参と一緒で言葉遊びなんだけど。17人くらいの参加者は大体ミュージシャンで、みんなZINEを作った事が無い人で、みんなで一緒に自分の最初のZINEを作って展示するというイベント。
M:みたい!
青:(トートバックを持って来て、スマホを見る)
M:あ、これWisut Ponnimit⑩(のトート)。
青:あ、そうだよ。フライヤーが今無いんだけど、ナタリーに載ってたの。(携帯で探す)あ、このアルバムオススメ。だけど今の話とは関係ないよ。ゑでぃまぁこん⑪の「カミナリデンゴン」。
M:デザインカッコいい!あとで聴いてみたい。
青:うん、聴いてみて。
M:これはあの映像クリエーターとミュージシャンのコラボしたという作品ですか?
青:ちがうの、だけどこのデザインはNUUAMMのアルバムをデザインした「GRAPH」という会社が作ったの。去年のツアーの時、どこに行くのも持って行って、たまにライブの前に聴いてたの。
M:うん。
青:あ(スマホ画面を指す)、人zine展。
M:マヒトさんが主催のイベントなんですね。
青:そう、彼が企画したの。この参加してるバンドを聴いた事あるかな?BO NINGEN、快速東京、Tenniscoatsとか。
M:聴いた事あるのもあるし、名前聴いた事あるのもあります。
青:私も参加するの。だからこれ(Mangasickの本棚の台灣zineを指して)はすごく興味がある。
M:なるほど。人zine展の参加作品は販売しますか?
青:売る人もいるし、売らない人もいる。
M:青葉さんは?
青:またここに持ってくるよ。
M:やった!もし良ければ、販売したいです。
青:一冊ずつ作ろうと思ってて、沢山できたらまた持ってくるね。
M:ありがとう!手作りのzineは面白いですね。
青:沢山写真を入れようと思ってるの。
M:うん。私たちもお店を開いてからZINEに触れる事が多くなって、ハマりました。そしてZINEを作っている沢山の友達と知り合えました。彼らは5月末に台湾ZINE販売会に参加しますよ。
青:ほんとに?5月末?
M:三十、三十一日。
青:人zine展は六月六日に始まるから、ほとんど同じ時期だね。台湾と日本の両方のイベントを一緒にできたらいいね。
M:そうです、前に仙台の古本屋の「火星の庭」の店長が来た時にもそういう話になりました。
青:日本のユトレヒト⑫というお店も沢山ZINE置いてあって、前にタム君と吉本ばななさんの座談会をやったの。
M:面白そう、その二人!私たちは中野TACO chéという本屋さんと交流があって、そこから日本のZINEを入れる以外に、台湾のZINEを彼らに推薦したりしてます。なので今TACO chéではいくつかの台湾人の作品が買えます。
青:良い事聞いた、行ってみよう。
M:やっぱり青葉さんの漫画も見たいですね(笑)。
青:私も描きたい。時間があれば、マネージャーの木場さんの漫画をすごく描きたいの。彼女本当に面白くて。タイトルは《木場ちゃん!》。
M:四コマ漫画ですか?(笑)
青:ううん、ストーリーはそんなに無くて。表紙はもうできてるんだけど。
M:良く描けてる!(大笑)
木場:(スマホを見せて)これは青葉さんが前に描いてくれた私の絵です。
M:すごい!「行け!木場ちゃん」。実は私は(店長の老B)、前に同人誌を描いてたんですが、でも描くのが上手くなくて……
青:自分で上手くないって思うの?
M:そうです、なので自信がなくなってからもう描かなかったけど、このお店が開店してから色んな作品をみて、刺激をもらって、漫画の表現は本当に自由で、描くのが下手なのはそんなに問題じゃないってわかったんです。
青:うん。
M:これはまさに私が最近描いたものです。去年私たちは漫畫家の駕籠真太郎さんの個展を開催しました。彼を紹介するZINEを作って、後ろに付録で付ける漫画として描きました。
青:(空港でのお迎えの場面を指して)あ、震えてる。
M:本当に震えました!これは私の約7年振りの作品です。
青:すごいね、自分の周りに起こった事を漫画にするのは良いと思う。
M:中の部分は印刷に出して、外側は手作りで仕上げました。
青:デザインも自分でやったの?
M:そう。「デザイン」というと大げさかもしれませんが(笑)。エログロの要素がある作品を見るのが怖くて、気持ち悪いという台湾人もいます……
青:(壁の上の丸尾末廣のポスターを指して)
M:そうそう。一方でこういう作品を好きなひともいて、見た目は恐怖であったり気持ち悪さの表現だったりするけど、見た人が嫌がるような要素は作品の一番重要な核心ではなく潜在的にある純粋な感情こそが素晴らしいと思ってます。なのでこのZINEを作る時に、赤ちゃんが人形で遊ぶ写真を選んだんです。
青:いいアイデアだね。
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