2015-11-23 20:00

第七食『恵比寿・リキッドルーム近くの海鮮丼屋(後編)』| 食漂譚~バンドマン東京グルメ紀行~

kuihyoutan007

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第七食『恵比寿・リキッドルーム近くの海鮮丼屋(後編)』

text & photo by 淋梅毒(Super Ganbari Goal Keepers)

 

前編はこちら

 

前回の文章で、「ゆらゆら帝国にバンドのあるべき姿を見た」というようなことを書いた。そのあるべき姿とは、バンドが終焉に近づいても「何とか今までにない新しいことはやれないか、できないか」と試行錯誤をやめなかった姿勢だ。

 
2008年頃からのライブでは、お馴染みの曲が全く知らない別の曲のようにリ・アレンジされていたり、行く度行く度に毎回柴田一郎の叩き方とドラムセットの組み方がガラリと変わっていたことが特に印象に残った(普通ドラムというパートはそこまで短期間で変化しない)。それが、ゆらゆら帝国の3人が「(前略)完全に出来上がってしまったと感じました。 」との境地に達しながら、なおも挑戦を続けていたと僕が感じた所以だ。

 
ただし、補足しておくと人によって最後期のゆらゆら帝国についての感想は異なる。以前SGGKのCDをプレスしてもらったbridgeという会社の方と話した時は、「昔の方が勢いやキレがあり、後期は衰えていた。毎回色々趣向を凝らすのも、足掻いてるように感じた」という意見も聞かれた。

 

写真1

 

自分が観たゆらゆら帝国のコンサートの中で、印象に残ったものをいくつか。

 
2008年6月、恵比寿リキッドルーム2デイズコンサートというゆらゆら帝国の企画があった。大学に入ってからは音楽の趣味が合う人も周りに少しづつ増え、 何人かゆら帝好きを集めてコンサートに出かけた。その時集まった同行メンバーは、軽音サークルの同期T君、先輩のTさん、そして別の軽音サークルの女子Sさん。

 
リキッドルーム近くの交差点の歩道橋の下にある海鮮丼屋で、手早く夕飯を食べた。 確かT君が僕のことを、「いつも70年代みたい変わった服装して学校に来るんですよ」とSさんに紹介していた気がする。食事が美味しかったかどうかは全く覚えていない。

 

ライブでは、坂本慎太郎が緑の原色のTシャツに、お馴染みの赤いパンタロン。亀川千代、柴田一郎もいつもと変わらず。ただしセットリストの内容が、その前年に出たアルバム『空洞です』の曲を一切演らないというものだった。ではどんな曲目を演奏したかというと、シングル『美しい』以前のアルバム『sweet spot』『ゆらゆら帝国のめまい』『しびれ』収録曲からだった。

 
ラストの〆曲は、僕が一番好きな「冷たいギフト」という曲。初めて生で聴くことができて、大変感動した。(ゆらゆら帝国はアンコールを一切やらない事で知られる。が、この話には続きがあり、海外公演ではアンコールをするようだ)

 
ちなみに2デイズの二日目は、打って変わって『空洞です』の曲のオンパレードだったと後に知人から聞いた。

 

ゆらゆら帝国「冷たいギフト」

 

写真2

 

もう一つは、2008年末の新木場スタジオコースト。

 
砂混じりのツバをペッ(砂のお城)と、不穏な雰囲気で幕を開ける。途中、「わかってほしい」という曲をやった。往年のファンも久方ぶりなナンバーだ。そこで僕は、人間が集合して、バンドという形態を組んでロック音楽をやる本質を見た。

この曲は、歌詞でいうと「わかってほしい、わかってほしい、アーッ、アーッ、アーーーッ!」のあと3人が暴れタイムに突入する(アルバム『3×3×3』で言うと、開始から1:01と2:18)。CDと違い実際の三人は、この暴れタイムに移行するコンマ数秒、ほんの一瞬(わかるかわからないくらい)ピタッと静止し、それから激しく楽器を弾きまくるパートに突入した。ドラムの柴田一郎は、興奮のあまりシンバルスタンドを右足で蹴り倒していた。

 

バンドというのは、とどのつまり合奏だ。人間が楽器を手にし、合わさって演奏をすることに、バンドの意義と醍醐味がある。2008年12月8日、「わかってほしい」で三人の楽器の音と肉体の動きが完全に一つの生き物の様に融合していた。グルーヴとか阿吽の呼吸といった言葉では形容できないくらい、合体していた。

 
DVDやYouTubeで手軽に味わえるカタルシスをインスタント・カタルシスと呼ぶことにする。例えば、仮面ライダーBLACKの変身シーンと、「ガメラ2 レギオン襲来」のガメラ登場シーンがそうだ。心の浄化作用とでも言えばよいか、「プツプツプツ、ジュワーーーッ」と身体が泡立つような感覚。

 
ゆらゆら帝国のライブで目撃した「わかってほしい」は、それを何万倍も濃縮・精製したような衝撃だった。バンドは解散しているので、もう二度とその感覚を生で味わうことは出来ない。ふとのあの光景が時折脳内で思い返される。バンド音楽に求める本質は記憶の中にしかなく、それにすがっていまだ僕はバンド活動を続けている。

 

写真3

 

2015年も年の瀬に差し掛かろうとしている。昼夜問わず風が冷たくなってきた。久しぶりに恵比寿リキッドルーム近くの交差点のふもとにある海鮮丼屋を訪ねてみたが、テナントは不動産屋に変わっていた。面影はもうない。

 

写真4

 
 

【参考サイト】

ゆらゆら帝国 information blog
非常にYYT愛のあるファンサイト。坂本慎太郎がソロ活動を開始した後、1年ほどして更新を終える。

ゆらゆら帝国 解散のメッセージ(オフィシャルサイトより)

仮面ライダーBLACK 変身集(YOUTUBE)

ガメラ2 レギオン襲来 劇場予告編(YOUTUBE)

 
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次回は、「上池袋・京たこのたこ焼き」をお送りします。

 

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お知らせ

コラム『食漂譚~バンドマン東京グルメ紀行~』は、毎月1日と15日をめどに更新する予定です。

 

umezawa

 
淋梅毒(りん・ばいどく)
1986年富山県生まれ。Super Ganbari Goal Keepersのドラマーとして活動中。
学生時代はドキュメンタリー監督・森達也の元で4年間メディア・リテラシーを学ぶ。
https://twitter.com/officeRBD

 
SGGK

 
Super Ganbari Goal Keepers(スーパーガンバリゴールキーパーズ)

2011年に結成。略称SGGKとして都内で活動中。
アルバム「Cang Gang Pops(宦官ポップス)」が流通盤として、各レコード店で販売中。草食系にすら食われてしまう、植物系ロックバンドとして、音楽雑誌「SGGKマガジン」を作ったり、SODクリエイトの人気AV「しゃぶりながらシリーズ」に楽曲が採用されたりと、独自の活動を続けている。

現在OTOTOYで両A面シングル「レコードコレクターズ / 世界は俺を中心に終わっている」の配信と、特設サイト「SGGKメンバーが影響を受けた50枚」を公開している。

 
SGGK 公式サイト:
http://sggkeep.flavors.me/

twitter:
https://twitter.com/sggk_ganbari



SGGK代表曲「植物人間系男子」PV

 

ライブスケジュール

SGGK年内ファイナル企画

日時:2015年12月27日(日)
会場:東高円寺UFOクラブ
競演:未定





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