第三食『春日・真砂市場の魚の骨せんべい』| 食漂譚~バンドマン東京グルメ紀行~
第三食「春日・真砂市場の魚の骨せんべい」
text & photo by 淋梅毒(Super Ganbari Goal Keepers)
真砂市場は、平成27年3月31日(火曜日)をもって廃止となりました。
長年のご利用、誠にありがとうございました。(文京区ホームページより)
http://www.city.bunkyo.lg.jp/sangyo/syoutengai/masagokouriichiba.html
文京区にある区設真砂小売市場は、上記URLにもある通り平成27年3月末に廃止された。残念ながら閉設された後にその報せを聞いたので、真砂市場の最後に立ち会うことは叶わなかった。
学生時代(2008〜2012)、僕は御茶ノ水にある校舎に通うために、ほぼ毎日池袋〜御茶ノ水間を自転車で走っていた。その間約30分。東京メトロ丸の内線で池袋駅から御茶ノ水駅までは一本なので電車を使えば済む話なのだが、定期代の節約と、ドラム以外まるで身体を動かすことがないので、自宅から大学まで自転車で通うことにしたのだ。アップダウンがなかなか多く、良い運動になったし、何といっても道中で様々な発見があった。
その中の一つが文京区・春日駅の出口すぐにある(「あった」といった方が適切だろうか)区設真砂市場だ。市場といっても、キトキトの魚を売っている訳でも、採れたての彩り豊かな野菜や果物を並べているわけでもない。総菜やパン、菓子などを置く店だったり、酒屋や花屋があったりと、どちらかというと商店が集まったような場所だ。
http://kozoh55.blog.fc2.com/blog-entry-524.html?sp
ブログ『下町風来坊〜小僧の温故知新〜』
(筆者注:まだ営業していた時期の写真はネット上には多数ありますが、無断借用はできませんので、当該写真が掲載されているページのURLを貼り付けることにします)
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2011年のゴールデンウィーク前、大学4年の僕はやっと一つの内定を得た。就職超氷河期であり、震災の影響を受けて採用活動にも影響があったりなど散々な世代で、尚且つ多浪生でもあったので大分就職は厳しかった。エントリーシートを確か100枚近く書いて、説明会もハシゴして、何とか進路は決まったものの、翌年3月の卒業まで時間はかなり持て余すこととなった。その時は軽音サークルには属していたが外バン(*)は組んでいなかったし、いわゆる大学生的な発展途上国を貧乏旅行するみたいなこともやらなかったし、いったい何をして過ごしていたんだろう。
*サークル外で組むオリジナルのバンドを外バンと言っていた。
東京ドームや文京区シビックホールを見渡せる春日町という大きい交差点を自転車で通過するとき、薄暗くて、昭和から平成に移る際に時代に取り残されたような「真砂市場」との表記のある入口を発見し、何の気なしに自転車のスタンドを留めて入ってみた。
テナントは数えるほどしかなく、活気もない。売る方も、買う方も、人がほとんどいない。ただ、寂しく、やるせない気持ちにはならず、何となく幼い頃過ごした富山地方鉄道・東三日市駅前の商店街を思い出し、落ち着いた。
僕は天ぷらなどを売っている惣菜屋で魚の骨せんべいを買い(¥100)、奥にある簡易休憩スペースでそれを食べた。香ばしく揚がっており食感もサクサク、太い骨の辺りはザクザクとした食べ応えのあるものだったが、結構しょっぱい。今から思えばおやつというよりかビールのつまみにちょうど良い食べ物だ。それを齧りながら、コンセントを拝借してiPhone4で「みんなの就活」などを見ていた。
http://blog-imgs-51.fc2.com/i/m/a/imaima1000/20120604225734810.jpg
↑魚の骨せんべい。『パステルとジオラマ』より
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/4e/e9bd15dbc053c85f992d7f58b474cf95.jpg
↑休憩スペース。『hiroshi hara: saxophoniste』より
改めて真砂市場について調べると、僕が骨せんべいを買った店は昭和33年創業の『天ぷら小照』、魚の骨せんべいは正しくは「カルシウム」という名で売られていたようだ。思い返すと確かそうだったかもしれない。ちなみに簡易休憩スペースの正式名称は『すぺーす井戸端』。地域住民が趣味で撮影した写真や絵が申し訳程度に展示されていた。
http://y-miyaz.cocolog-nifty.com/blogde3po/2010/03/post-1683.html
『ブログde散歩』
結局、二週間に一度は帰宅前に寄って、前述の「カルシウム」を食べて一息ついていた。ただ卒業後は、一度も行っていない。
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一体どのタイミングで、ここ真砂市場で長年天ぷらを揚げ、パンやお酒を売り、花々を仕入れ水替えをしてきたおっちゃんやおばちゃんたちは、市場の廃止を告げられたのだろう。
営業していた店は他の場所に移転したのか、市場の廃止と同時に店をたたんだのか、一体どうなったのだろう。色々なことを決断するだけの充分な猶予や資金はあったのだろうか。
客側にとっては、無くなってしまった店と似た匂いのする他の店を見つけることは、頑張ればできるかもしれない。しかし、店を構えている側となれば話は別だ。近くに移転しない限り、多くの常連や、慣れた土地との別離が待っている。失うものは、一介の勤め人(休日はバンドマンだけど)である僕が想像する以上に大きいはずだ。
彼らは、どこへ行ったのだろう。
ちなみに今回の真砂市場の件をメディアに絡めていえば、廃止当日までの様子を過剰にお涙頂戴演出で魅せるのが昨今のテレビニュースであり、ワイドショーだ。一方、廃止された後の、そこにまつわる人々の行方を追い、市場の残した痕跡を改めて再検証するのがドキュメンタリーの役割だ。さらに言うと、即席で仕上げなければいけないニュースでは追いきれない部分を補完するのがドキュメンタリーの意義と言ってもいいかもしれない。
そして僕は、時間をかけて作り手が被写体をじっくり追い、信頼関係を築き、そして時にはそれが破綻し、修復し、対話を重ねるドキュメンタリー番組がやっぱり好きだ。
残念ながら、今ではテレビ番組表にドキュメンタリー枠は数えるほどしかない。
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次回は、「高円寺・馬力の馬力とうふ」をお送りします。
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執筆者のプロフィール 2011年に結成。略称SGGKとして都内で活動中。 現在OTOTOYで両A面シングル「レコードコレクターズ / 世界は俺を中心に終わっている」の配信と、特設サイト「SGGKメンバーが影響を受けた50枚」を公開している。 twitter: SGGK代表曲「植物人間系男子」PV |
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