2020-06-18 21:00

Koochewsen riyo (Vo./Gt.) インタビュー | “ミステリー” に込めた現代への希望 2nd Full Album『Mysterious Flight』発売に寄せて

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2020年6月、今もなお続くコロナ禍をどう過ごしていますか?明日も見えない退屈な日常の真っ只中でしょうか。それとも満員電車に再び揺られていたり、殺伐としたSNSにもやもやしていたりしているのでしょうか。

 
riyoさんの歌う ”毎日がmysteryさ” という言葉にそんな日常を照らす答えが秘められています。

 
東京を代表するネバーエンディング・ポップマエストロ、Koochewsenの2nd Full Album『Mysterious Flight』の発売に寄せたriyo(Vo./Gt.)さんへのリモートインタビューをお送りします。

 
「原点回帰」とも話すサウンドは時に甘美で時に刺激的。そしてレコーディングの時期は違えど、偶然にもコロナ以降の現代へのメッセージと合致する内容にもなった今作。偶然にも?偶然って一体なんなんでしょう。

 

interview by ふじーよしたか

 
 

   早速聴かせていただいたのですが、通して聴いた後に『Mysterious Flight』というタイトルが二重三重の意味になって届いて。以前から、Koochewsenからは未知の探求への好奇心をずっと感じているんです。

 

riyo うん、ありますね。

 

   サウンドそのものや “宇宙” とか “UFO” というキーワードからもそんな好奇心を感じていた中で、今作は “愛” や ”魂“ といった精神的な面でも未知への探究をしているのかなって思って。それってまさに『Mysterious Flight』じゃないか!と、腑に落ちた感覚があったんです。ちょうどコロナ以降の現代へのメッセージとも合致する感じがありますよね。

 

riyo レコーディングは冬にしていたんですけど、リリースがこのタイミングになったのはもう世界が用意してくれたとしか……これは偶然じゃなく、このアルバムが出るべき舞台を用意してくれたってことなんですよ。

コロナはひとつのパーツでしかなくて、どんどんスピリチュアルなものが広がっている感覚があるんです。スピリチュアルと一括りに言ってしまうのも勿体ないくらい。

オーガニックって言葉が当たり前になって、マインドフルネスって言葉も浸透して、「ミッドサマー」や「ミッドナイト・ゴスペル」も公開されて、「この世は幻想です」とか言うYouTuberもすごく増えていて。今まで信じていたものに対する価値観の転換みたいなものが起こってて……って言うと大袈裟に聞こえてしまうんですけど、「これまでと地続きの2020年を歩んでいては駄目なんだ」ってことがようやく分かったんじゃないかなって。

なんだろうな……俺の時代が来たとしか言い様がないんですよ(笑)!

 

   「ミッドナイト・ゴスペル」は本当に凄いアニメでしたよね……。それらも含めてトピックスとしてそういうものを目にすることが多くなってる印象ですか?

 

riyo そうですね。人によってこれは本当に違うと思います。

言葉ばっかり信用し過ぎるなっていうことを以前から言っていて。イルカのコミュニケーションって凄いじゃないですか。超音波で感情をダイレクトに伝えていて。人類は言葉でしかコミュニケーションできないことのジレンマをもっと自覚する必要があるのではないかなって。自分の世界の全てが言葉で終わってる人たちってなんか救いが無いというか。

 

   SNSがまさにそのものですよね。

 

riyo そうなんですよ!そもそも言葉自体にすごく無理があって。言葉の歴史自体もずっと浅くて、言葉の無い間も人類はいろんなことをやってきてるんです。人類の誕生が400万年前だとして、言葉なんてここ数千年なんですよね。その中でさらにテレビが出てきたのって最近で、今はこうしてリモートで喋っているわけじゃないですか。物凄い速さで外の世界が進歩したことに当たり前になりすぎてるんじゃないかなって。

 

   人間の根本は変わらないままにツールだけが形成されていって、人間にとって不必要なものが何かも分かってないまま、不必要だと思われているものが削ぎ落されていってる感じはします。

 

riyo 不要不急がまさにそうですよね。遊びこそ急用であるかも知れないし……。

 
 

| 「これを良いことだと思う以外の選択肢って何がある?」

 

   アルバムタイトルはどういう経緯で名付けられたんでしょう。これもコロナとは全く関係のないタイミングですよね。

 

riyo 実際のところ関係はないんですけど……でもなんか今の時代そのまんまじゃないかなって気がしますね。特に一曲目の「mystery」は。ミステリアスって言葉を使いたかったのは、その曲の存在が大きかったからだと思います。フライトって言葉にも意図的にKoochewsen感を出してて、それを合わせていつの間にか『Mysterious Flight』な気しかしなくなってきました。

 

   「mystery」の歌詞に関して言えば、 “毎日がmysteryさ” って言葉はこのご時世だからこそしっくりくる感覚になってる気がしますし、 “今ぼくもmysteryさ だからときめけ” っていう言葉もアルバムタイトルそのものを表している感じがするんですよね。自分も何者かなんて分かんないし、それと同時に他者や環境も含めて理解出来るものなんてないんだから、その理解出来ないことをを理解しようというか。

 

riyo その歌詞が今だからこそハマるんですよね。時代がこういうのを求めたんですよ。どっちが先とかじゃなく、偶然というか必然というか……何かが呼んだとしか思えない。“毎日がmysteryさ” って歌詞で言うと、今みんな家で過ごしてるわけじゃないですか。例えばこれを読む人で、退屈に感じて生きてる人が沢山いるかもしれない。でも自分次第でいくらでもミステリー出来るし見つけられるよってことを歌ってます。

Bメロでは、ここにいることを感じよう、今を生きようみたいなニュアンスで “Let’s be here now” って歌ってるんです。この状況を我慢の時だと思って過ごすのか、今でしか出来ないことを楽しんで生きようって思うのかでは全然違くて、俺は間違いなく後者なんです。

もちろん俺もこの時期はめちゃくちゃキツい。これまでのものの見方で今の世界を認識したら、とても良いことが起きてるとは言い難い。でもネガティブって本当に損だと思うんですよ。良いことが起きている、俺も含めてみんな前に進んでいるって思うしかないですよね。だから俺もこの一連の流れで貴重な体験ができたんですよ。

人類ってみんな幸せであるべきなんですよ。当然のごとくみんな幸せであるべきだし、幸せになってほしいし、辛い思いをしてほしくない。って思うからこそ、そう思うしかないですよね。

今のこの状況を指して良いことが起きてるなんて言ったらすごく誤解を生むだろうけど、でもあえて言いたい。「これを良いことだと思う以外の選択肢って何がある?」って。だからこそ、 “毎日がmysteryさ” って歌詞を言えて良かったなって今だからこそ思えますね。

 
 


Koochewsen – mystery(official music video)

 
 

   今回はMVもたくさん公開していて。

 

riyo YouTubeに全曲上げるべきかなと考えていて。病的なほど新しいことをしたくて、リリックビデオという形で初めて本格的に映像に取り組んでみました。飽き性だから同じところに留まっていることが嫌で、全部映像化するっていうのはそういう気持ちが出たんだと思います。

 

   以前のアルバム『sweet illusion』に収録されていた「エンドレスサマー」が中国語で再録されているところも含めて、自分で映像を監督することによってよりグローバルに視点が向いているのかなって。

 

riyo 最初の目的はもちろんグローバルにやっていくってことを見せたり、中国へのファンサービスだったり感謝の気持ちを伝えるって意味合いでもあったんですけど、「エンドレスサマー」はいざ中国語で歌ってみるとめっちゃC-POPっぽかったんですよ。言葉に馴染むメロディというか、しっくりハマってるじゃん!って面白くて。

 

   サウンドも映像も含めて、今作は国内の全く別の層や海外の届いてなかったところにも面白がってもらえるような尖りっぷりで。尖っているのに対象が広いなと。

 

riyo そうですね。結局ポップにしか成りえないんだと思います。J-POP大好きですからね。

 

   そこに飽き性な部分が加わると、たくさんスパイスが入ってくる曲に仕上がってくるんじゃないかなと思うんです。「ここでもうひとフレーズ同じのを演奏するんだったら、別のメロディ持ってくるっしょ」みたいな(笑)。

 

riyo 確かに(笑)!まさにそうとしか言いようがないです。飽きちゃいますからね、めちゃくちゃ関係あると思います。

 

   「self abduction」はカオルさん(key.ベントラーカオル)の曲だったのがすごく意外で。

 

riyo そうなんですよ。このアルバムにはカオルの曲が二曲入ってますね。カオルはいくらでもこういう変な曲を作れる気がするんですよね(笑)。

 

   “魂” とか “愛” って言葉が印象的だった感想を最初に話しましたが、歌詞の使い方もリヨさんとカオルさんで結び付く部分があるような気がして。これってリヨさんからしたらどういう風に感じてますか?

 

riyo 辿って来た道は違うのに同じ様なことを歌ってるっていうのは本当に不思議です。でもなんとなく繋がってる感じがしていて。偶然のような必然のような、大いなる力の一つに過ぎないんじゃないですかね。

前作の「English man」って曲もカオルが作ったんですけど、当時からその匂いはあったんですよ。ちょっと自他の境界線がぼやけるような世界観の歌詞だなって思ってて。今回それが「愛の涯て行き最終列車」で大爆発したというか。

 

   「self abduction」と「愛の涯て行き最終列車」という二曲の振り幅もすごいです。

 

riyo 本当にそうですよね。自画自賛するわけじゃないけど、「self abduction」のMVは曲の世界観を大爆発させられたなって思ってますよ。馬鹿馬鹿しくてもカッコ良い感じ、ベントラーカオルっていう人間の紹介映像みたいな。あれほど分かりやすくこの人はこういう人ですよっていうプロモーション映像は無かったと思ってて(笑)。

 
 


Koochewsen – self abduction(lyric video) 6/17new album発売!

 
 

| 自他の境界線を失う気持ち良さ

 

   アルバムラストの「kiss me like an illusion」は、前作の同じくラストに収録された「sweet illusion」の流れを汲んでいて。

 

riyo 完全にパート2です。仮で「sweet illusion part2」にしてましたからね。この曲相当好きなんですよ。聴いてるとき本当に気持ち良いんですよね。

 

   すごい単純な喩えで言うと、お風呂に入るようなリラックスっぷりだし、それなのにサイケデリックな様相もあるし、まさに先ほどの自他の境界線が溶けて無になっていく感じがあります。

 

riyo そう、それが気持ち良いんですよ。自他の境界線の話をすると、お金を稼ごう!とか経済を回そう!って物凄く自我に埋没した考え方で。お金を稼ぐのは悪いことではないんですけど、それが第一命題になっていることと自我の話って密接になってて。

最初に話したオーガニックって言葉だったりも含めて、自然のことをもっと考えようよみたいな流れがすでに来ていて、その流れって自他の境界線を失う気持ち良さと密接にリンクしてるんですよ。自然は気持ち良いものだって思うときの人間の心は自我自我していなくて。自然は人間が作り出したものじゃなくて、お金は人間が生み出した価値観だからなのかな……

僕らも自然から生まれているわけだし、あるべき場所に還っていく気持ち良さというか。

 

   ゼロであってイコールであることが尊いという。

 

riyo そうなんですよ。なんでこんなこと言うかって、あくまで俺はただの快楽主義者で、気持ち良くなりたいだけなんですよ。お金とか自己実現とか、人間が作り出した価値観によって人間が乱されるような構図の中での幸せって限界があると思ってて。自然の中で気持ち良いって思えるような自己喪失の快楽は本当に限りがないんですよ。自然と一体になるってことは宇宙と一体になることであって。

 

   きっとriyoさんが音楽をやるっていうのも単にそれと結び付いてるだけなんですよね。

 

riyo 気持ち良くなりたい!っていうのがやっぱり一番にあります。その上で結果として誰かを気持ち良くしてあげられることも出来るんじゃないかなって。道しるべのようなものになれたらいいですね。

 
 

 
 

   riyoさんのソロプロジェクトでのMV(7月1日発売のシングル「shapeless shape」)もお先に拝見しましたけれども、すごい映像でした。

 

riyo バンドとソロプロジェクトのやりたいことが明確に分けられた気がするんですよね。

 

   確かに音作りも含めて全く別物でした。

 

riyo ミニマルでアンビエンスな感じの気持ち良さはソロでやっていきたいですね。ソロでやろうとしてることはシャーマニズムだと思っていて。2020年以降の世界ではシャーマニズムがキーワードになると思ってるんです。旧来のシャーマニズムではなく、デジタルな世界の上で再構築されるシャーマニズム。瞑想を配信しようかなって思っていて、2020年のシャーマニズムの在り方を証明したいんですよね。

自我を持つことによって自他が明確に切り離されて、他人と自分を違うものとして認識し合うけど、実は繋がってて。瞑想して言葉を使わず呼吸だけを観察するときって何も考えてなくって、なんとなく自他の境界線が希薄になってくるんです。そこから画面の向こう側の人とも繋がって、地球と繋がって、自然が愛おしく思える感覚に繋がってくると思うんです。

繋がるというか、自分を失いたいんですよね。それってすごく気持ち良いことなんですよ。

 
 

| だって自分らしかやってないんだから!

 

   今作を語るにはやはりプログレというキーワードも出てきます。

 

riyo この『Mysterious Flight』は改めて原点に回帰したアルバムなんです。ゴリゴリにプログレをやってた頃のクウチュウ戦(活動当初の綴り)にあえて戻って。

前作の『sweet illusion』はポップスという枠組みの中で物凄いことが出来たなって思っていて、でも多分求められてるKoochewsenの音楽からはちょっと外れてるんじゃないかとも考えてたんですよね。三年くらいメジャーなレコード会社のレーベルに所属していたから、曲を短くしてみるとか流行っているものに寄せようと努力したり……それを経たから今こういうことが出来ているわけで。全てがメッセンジャーであって教師みたいなもので、無駄なことなんて人生でひとつもないんですよ。たまにすごいスパルタな鬼教師が来たりしますよね(笑)。でもそれをネガティブで捉えるのは勿体なくて。

Koochewsenはプログレというイメージに抗うようにしてた時期もあったんですけど、また嬉々としてやり出してる自分がいて。やっぱり喜んでもらえるんだったらそれが良いっていう気持ちがどんどん強くなってきたんですよ。だって自分らしかやってないんだから!それで吹っ切れたんですよね。

 
 


Koochewsen – 押入れのスターシップ(Audio visual)

 
 

   確かに今回の曲を聴いていても、なんというか遠慮がより無くなったなって感じがしました。

 

riyo どんどん遠慮は無くなっていくと思いますよ。これからはポップでキャッチーなまま、どうやって尖り続けていくか。それがKoochewsenのテーマですね。

だから今回は、今までやってきたことの一番良い形が詰まったベストアルバムみたいなもので、これまでの総まとめでもあり、これからを思わせるような内容になっています。

たぶん、Koochewsenはこれで行くんですよ。THIS IS Koochewsenだぜ!ってことで。

 
 

 
Koochewsen『Mysterious Flight』

発売:2020年6月17日(水)
価格:2,500円(税込)
品番:FPS-0002
レーベル:fantastic planets

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収録曲:
1.mystery
2.shine
3.self abduction
4.求愛のテーマ
5.愛の涯て行き最終列車
6.エンドレスサマー”无尽夏日”
7.押入れのスターシップ
8.kiss me like an illusion

 



 
ふじーよしたか

邦楽インディーズレコメンドブログ「音楽八分目」とデイリーレコメンドタンブラー「Ongaku Wankosoba」を使って、レビューやインタビューやライブイベントをなんやかんやしています。

http://hachibunme.doorblog.jp(音楽八分目)
https://o-wankosoba.tumblr.com/(Ongaku Wankosoba)
https://twitter.com/fj_pg_yochi

 

関連インタビュー

Koochewsen riyo(Vo/Gt)インタビュー。「sweet illusion」が見せた愛のかたち

 




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