2020-01-19 21:00

青木慶則 EP『冬の大六角形』発売! 青木慶則×安田寿之×伊波真人 鼎談インタビュー

写真左から、安田寿之さん、青木慶則さん、伊波真人さん

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青木慶則(ex-HARCO)が待望のEP『冬の大六角形』を2019年12月14日にリリース。このアルバムでアレンジ参加したミュージシャン・安田寿之と、そして今回、青木慶則作品にははじめて作詞で参加した歌人・伊波真人とともに、アルバム制作にまつわる鼎談インタビューを行った。

 

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photo by Shiho Aketagawa
interview, art work by Mayu Murota
interview at CITAN

 
 

| 当初の構想とはだいぶ変わった

 

   前回インタビューしたのが2019年2月公開で、ちょうど1年ですね。今回、『冬の大六角形』はいつ頃から構想がありましたか。

 
青木慶則(以下、青木) 自分の中で1年に1回は何かアルバムを出したいと思ってたんですが、去年の9月の段階で、今からじゃフルアルバムが間に合わないと思って。それでも意地でも出したくて。じゃあ、もうミニアルバム(EP)しかないかと思ったのがきっかけです。

 

   前回のインタビューで、「これからも弾き語りだったり、リズムの楽器以外で構成するっていうのを、何枚か続けていきたい」と仰っていましたが。

 
青木 もう、インタビューとかで宣言するもんじゃないなあって思います(笑) 今回、結構派手に裏切った形になりました。

 

   何か心境の変化などがあったのでしょうか?

 
青木 何だろな、何を考えてたかな……(笑) ただ、最初は、今回も前作『青木慶則』同様、また一人ですべてやろうとは思ってました。特に、今回はちゃんとした流通を通そうと思ってなかったこともあって。

 

   結果的に、ゲストの方がたくさんいらっしゃる多彩なアルバムになりましたね。サウンド面では安田さんに依頼するにあたり、何かきっかけがあったのでしょうか。

 
青木 まず曲自体は、今回はあえてコードがあまり展開しないようなミニマルな作品を並べようと思って。ローファイというか脱力系というか、今でいうマック・デマルコみたいな。曲の造りだけでいうと、ああいうHARCO初期のような、僕の原点でもある「ゆるさ」に戻ってみようと。それで、例えば2曲目の「ぼくときみの第六感」はコードが2個しか使われてなくて。2小節ごとのループで、メロディーだけが少しずつ変わっていく。今回伊波さんに作詞をお願いした「明けゆく空に」も、コードが4個使われた4小節を繰り返すだけなので、歌を抜くとほぼ同じ伴奏がずっと続くという。
その結果、結構トラックで遊べる要素がすごく多いと思ったんで、であれば、以前お願いしたことがある安田さんにまたお願いしようかなと。安田さんとは、主にメールでやりとりしながら進めていきました。

 

   安田さんはHARCO時代の最後のアルバム『あらたな方角へ』でも3曲ほど参加されていますよね。

 
安田寿之(以下、安田) そうですね。そもそもメールでできるというのは、結構コラボレーションが増えてきてたからなんです。2015年に『ハニカムジカ』という親子向けのコンピレーションに参加したんですが、青木さんも参加すると知った時に、ああ、いい機会だねってなったのが一番最初ですね。実は青木さんとは、もう10年以上知り合いで、いつか一緒にやろうという話はしていたんですが……実際に自分の作品を提示して「いくらでお願いします」ってやるのはミュージシャン同士結構ハードルがあるんですよ。だからお互いエクスチェンジできる『ハニカムジカ』は、ちょうどいい機会でした。
今回、青木さんとはすでにやりとりの下地ができているので、大体電話やメールである程度聞けば、どんな要素を求められているかが分かるんです。青木さん、すごく丁寧だから。

 

 

   安田さんはHARCOの最終作と、今回と、青木さんのちょうど過渡期に制作に関わられていますが、その変化はありましたか?

 
安田 いや……僕はそんなに変わってないと思ってます。僕はもともとそんなにサウンドで区別して聴かないっていうのもあるんですけど。さっき青木さんが、アコースティックになものに今回しようとしてたけれど結局エレクトロニックになった……って言ってましたが、僕は青木さんの音楽聴いた時、8割ぐらいは青木さんの声が占めているなと思ってて。あとはアレンジが1割、ミックス1割ぐらいな感じですかね。なので、ピアノ弾き語りやHARCO時代とも、僕はあまり変わってないと思っています。芯が変わってないし、声がありますしね。これがまたインストになったりするとまたちょっと変わるとは思いますけど。
アレンジはもちろん、要望があったのでエレクトロニックなことをやりましたが、できた作品は言うほど「裏切った」って感じはしないかなと。ある意味期待通りの、いいアルバムになっているんじゃないかなと思っています。

 

 

| 実はだいぶコアなファンだった伊波さん

 

   青木さんは今までミュージシャンへの作詞依頼は何回かありましたが、歌人にお願いしたのは初めてですよね。

 
青木 きっかけは僕が、本屋さんの店頭に平積みしてあった伊波くんの『ナイトフライト』を立ち読みしたことです。帯をKIRINJIの堀込高樹さんが書いてたから、というのが大きいんですが。

 
伊波真人(以下、伊波) いやもう、本当に高樹さまさまですね。

 

 

青木 でも実際読んでみたら、あれ? なんか今までに感じたことのない親近感があるな、と。僕だったらこういう詩を書きたいな、というものがそこにあって。普段僕は小説や短歌とか、あと詩集とかも読むんですが、それらを読んで、なにかしら取り入れたいとか、自分の作風に近いものを普段から探しているところがあるんですが、ここまで自分にフィットするものは初めてだなと。それも短歌で。短歌なのに歌詞みたいで、読んでいるのに口がすごく開く……滑舌よく読みたくなるというか。とにかくビビッときて。
それで、その日のうちに伊波くんをTwitterで探して。そしたら固定ツイートの『ナイトフライト』の告知にたくさん「いいね」が付いていたので、まあ1個ぐらい付けてもバレないかなって「いいね」したら、その日のうちに伊波くんからTwitterのDMが来て。

 

   それはすぐバレますよ(笑)にしても、展開早いですね。

 
伊波 青木さんのことは大好きなので、すごく嬉しくて。すぐお返事しました。

 
青木 そこで、伊波くんが元々僕のリスナーでいてくれていて、ライブも何回も来てくれてたと知りました。
実は僕、「伊波真人」っていう名前を最初本屋で見たときに、あれ? なんか見たことある名前だなあと思っていて。まあ有名な人だから、きっとどこかで目にしていたんだろうなんて思ったんだけど、僕の場合はそこじゃなくて、Twitterで僕によく「いいね」をしてくれている人だったからっていう(笑)

 

   そっちですか(笑) 伊波さんはいつごろからのHARCOリスナーなのでしょうか。

 
伊波 キリンジ(当時)さんが「KiKi KIRINJI」っていうネットラジオ番組をやっていたのですが、「Night Hike」リリースのタイミングで、そのゲストにHARCOさんがいらしていたことで知りました。もともと僕はエレクトロニカなども好きなので、番組で紹介された「Night Hike」には、エレクトロニカの要素も含まれていたのがすごく心に響いたんです。そこからさかのぼって「Ethology」も買って、それから、HARCOさんの買える作品は全部買い揃えました。それが20歳くらいのことですね。

 

 

   青木さんのnoteではさらっとご紹介されてましたが、実は相当なファンだったんですね。
ところで青木さんって詩人としての評価もすごく高いですが、今回、ほかの人に作詞を依頼するということに対する躊躇いなどはありませんでしたか?

 
青木 言葉の方でもコラボするのは好きなので、それはなかったです。ただ、伊波くんには、オファーはそのうちしたいなとは思ってはいたんですけど、実際に頼むのはもうちょっとあとにしようかなとは思ってました。でも、そういえば伊波さんの一番最初に「冬の星図」っていうタイトルがあったなあって。

 
伊波 はい、あれは新人賞をいただいた作品で。

 
安田 それってなんかリンクしてるんですか?

 
青木 いや、これが偶然なんですよ。伊波さんの歌集を元に詞を書いたわけではなかったので。

 
安田 シンクロしたんですか。

 
青木 「冬の大六角形」以外にも、詞ができていない曲が結構あったし、「冬」と「星」つながりで、このEPをまとめるときに伊波くんの詞があったほうが絶対いいだろうなって思ったんです。とはいえもう時間もなかったんですが、3週間くらいで書き上げてくださって。

 

 

   依頼を受けた時は、どんな心境でしたか?

 
伊波 めちゃくちゃ嬉しかったですね。だって、HARCOさんは僕にとって20歳くらいのときの神様のような人ですから。そのころ好きだった人って、もう一生ヒーローなんです。そして自分が取り組んできた言語表現で、そんなヒーローから時を経て依頼をいただいてご一緒できるなんて、夢のようですよね。同時にプレッシャーは多少ありましたが。でも、喜びが勝りましたね。

 

   今回は、詞を先に書いてもらったのでしょうか。

 
青木 それが、両方なんですよ。「明けゆく空に」は曲が先で。

 
伊波 「ツリーに星をかかげて」は詞が先ですね。いわゆる詞先(しせん)です。

 
安田 曲用に詞を書くときと、自由に書く時ってやっぱり全然違います?

 
伊波 そうですね、やっぱり意識はしますね。1番と2番の音数をそろえなきゃとか、といったセオリーがあるので。

 
青木 でも詞先なのに、ほとんど詞を変えないで曲を作ることができたのが驚きで。

 
伊波 実は今回の歌詞はそのセオリーを守りつつ、部分的に七五調になっているんです。というのも、かつて青木さんがインタビューで「川柳が延々と続くような歌詞が理想」とどこかでお話しされていたことが記憶の片隅にあって。せっかくのコラボレーションですし、じゃあ七五調ちょっと入れてみようかなと(笑) なにより、それに対して青木さんが一体どういう曲をつけてくれるんだろう? ということにすごく興味があったんです。

 
青木 でも僕は七五調には全然気付かなくて。ただ、読んだ瞬間に曲作ってしまいそうな、本当にすごく歌いやすい詞で。実は最初、うわ、やばい!読んだだけで曲ができちゃう! って読むのやめたくらい(笑)

 
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