インタビュー:ez do dan子 「これが私のスタンス!」| 一度聴いたら忘れられないシンガー・ラッパー
ez do dan子というアーティストをご存知でしょうか。まだご存知なくても、一度見たら忘れられないこのお名前。
三人組アーバンポップグループUrban Drive Familyのメンバーの一人であり、ソロ作品ではシンガーとラッパー両方の顔を併せ持つ彼女。その淡く繊細な歌声とたゆたうフロウの存在感は、一度聴いたら耳でも忘れられなくなるでしょう。そんな彼女の初めての配信音源である「ハッピーアワー」というシングルが4月17日に配信リリースされています。
人と出会うということ、人と話すということ、当たり前のようでいてよく考えると不思議で仕方がないこれらのことをテーマに据えた「ハッピーアワー」について、お話ししてきました。
interview by ふじーよしたか
まずどうしてもそのお名前が気になってしまうのですが……。
ez do dan子(以下、dan子) Urban Drive Familyという私が所属している三人組のラップグループが活動を始めるときに、「最後に子を付けたら面白い曲名ないかな?」って遊びをしてたんです。
自分のiTunesにTRFが入ってて、そこから「ez do dan子って面白いじゃん」ってなって……。笑
それがアーティスト名になって、そのままソロ作品まで出すことになって……。笑
dan子 本当ですよね。笑
グループでは誘われてやり始めた側だったんですけど、そんな私が能動的になにかを作っているというのも不思議だなって思ってます。
| いろんな人の話って面白い!
dan子 私の誕生日当日に、簾(Urban Drive Family 簾ンデゲオチェロ )から「誕生日曲」ってタイトルで送られてきた曲があって、それが「ハッピーアワー」の元になってるんです。
邦画の『ハッピーアワー』という映画を観て、ずっとそのことについて考えていたタイミングだったので、「誕生日曲」を聴いて、その考えていたことを乗せようと思って。
朝、会社への準備をしながら頭で思いついたことをそのまま歌って録ったのが結構元になっていて、サビは後で追加されたんですけど、歌詞とかフロウはほとんどそのときに思いついた言葉ですね。
すごい……!言ってしまうと”降ってきた”ような。
dan子 その映画を観た後に思ったことを会う人会う人に話してたから、言葉は頭の中に出来てて。それがそのまま歌詞に反映された感じですね。
あの、「誕生日曲」にしてはドープなトラックですけども。
dan子 確かに!そうですよね……!笑
「誕生日曲」の一年前に「はかない」っていうソロ曲を作ったときには、思いついた歌だけをボイスメモで簾に送って曲を付けてもらうっていうことをしてたんですよ。そこから一年に一回、その一年に出会った人とか見て思ったことを総括する曲を作りたいって思っていて。
なるほど。「誕生日曲」はその一環だったんですね。
dan子 「はかない」を作ってからの一年が2018年になるんですけど、カルロスまーちゃん(MONJU N CHIE)と出会って企画に呼んでくれてから、ライブに呼んでもらえることがかなり増えて、2018年は今までの人生とは比べものにならないほど沢山の人に会ったんです。
いろんな人の話って面白い!っていう気持ちが映画の『ハッピーアワー』を観て思ったこととリンクして曲になったんです。
| 気持ちに被さる布
dan子 こういうときにはこういう風に普通思うでしょ?ってこと、あるじゃないですか。
テンプレみたいなものがありますよね。気持ちも言葉も。
dan子 映画の『ハッピーアワー』の中には、そうじゃないことが起きてたんです。主人公たちが本当に正直にいろんなことを喋ってて。それを観て人の思ってることがさらに面白く思えたんです。周りの人やもはや自分も含めて本当は今何を思っているんだろう?って。ずっとその興奮があって、それが「ハッピーアワー」の歌詞になってます。
実は今までは気持ちにいろんな布が被せられてたんじゃないかと思うんです。ドラマで涙を流すシーンを見たりして、こういうシーンでは涙を流すものだ。みたいな。
そういう布を全部剥がして、本当は何を思ってて何を望んでて何をやりたいのかが見たいって思ったんです。それは自分にも周りの人に対してもそうで。
それで言うと、“君に興味がある”っていう言葉がキーフレーズになりますよね。前文には“この歩みを止める前のストーリー”とかちょっとネガティブな要素も入ってて、そういうネガティブとかポジティブもひっくるめて”興味がある”っていう言葉で肯定される感覚があって、聴いていてすごく嬉しかったんです。
dan子 話を聞くって、受け入れるというかすごいことだと思うんです。
ラップの歌詞って何かをディスったりするものもあるかと思うんですけど、「ハッピーアワー」の歌詞はすごく私らしいなって思います。音楽活動をしているのも、いろんな人の心の中を見たいというか、いろんな人に会えるからっていうのがあるかも知れません。
あー!面白いものが見たいってそういうことですよね。
dan子 人の心とか思ってることが一番面白い。不意にその人の何かを垣間見たような瞬間があったりするから、会話って本当に面白いですよね。2018年はそういうことをずっと思ってました。
耳が痛いようなことでもその人の布の被ってない部分に触れてる感じがして、聞きたいって思えるんですよね。
母というか牧師さんっぽくもありますよね。笑
僕がすごい好きなのは、その人の話を聞くことによってその人を受け入れたいと思いつつも、根底には結局自分が面白く感じたいという部分があることで。自分が面白いから話を聞いているっていうところに、すごくシンパシーを感じるというか。
dan子 そうなんです!笑
さらに付け加えると、“何も言わなくてもいい”って歌う一節もあって。
dan子 そうそう!その選択もその人の話で、話したくないっていうのも今のその人の気持ちだから、もはやそれもその人の心の中をまたひとつ覗いたような気になるというか。
”たとえば比喩も内容もなにもかもが今夜からまた変わっちゃったっていいんだ“
って歌詞もあるんですけど、私も気持ちは変わるし、いろんなことを忘れちゃうし、でもそれでも全然良いって思ってて。「前と言ってたこと違うじゃん」って責めたり絶対にしたくないんです。それが今のその人なんだなって。
そういう矛盾のような部分こそ人間くさかったりしますよね。その揺れ動きの部分に本質があるというか、なんならその揺れ動いた理由も知りたいというか。
dan子 そう、それです!同じ過去のことを語ってても全然違う表現だったりしても、その人の中で何かあってそういうことになったのかなって。
あと、今世の中ブレたり間違っちゃう人に対して厳しいじゃないですか。すぐ指摘されちゃう。だけど、それでも良いじゃんってことを言いたかったんです。
| こういう生き延びかたがあるのか!
今回のインタビューにあたってブログの記事を送っていただいて。それを読んだら「ハッピーアワー」も含めてdan子さんの人となりに結びつく部分が多かったんです。印象的だったのが、”私は普通の人だ”っていう自覚がすごく強いところでした。
dan子 うん、強いですね。未だに音楽のことは分からないし、楽器も弾けないですし……。
ブログには”こういう人がいてもいいんじゃないか”っていう一文があって。SoundCloudやYouTubeなどが広がって、いわゆる天才と称されるような才能の塊みたいな方々が見つかりやすくなった中、普通の人が普通だよっていう思いで作品を出すっていうのは、そこにむしろ特別な思いがあったのかなって思うんです。
dan子 歌詞にもあるんですけど、“見たことがないものを見たい”っていう思いが音楽とは関係なく根本として強くて。何が起きるのか分からない環境に身を置きたくて、そこで面白いものを見たかったんですよね。めちゃめちゃ音楽出来る人たちがいっぱいいる中に混ざってるっていう感覚で面白いです。笑
そこに何らかの化学変化が起きることを期待して。言ってしまえば今日のインタビューもその化学変化みたいなものですしね。笑
dan子 今日のこういう場も、めちゃめちゃ面白いし不思議だなって。笑
だからやり始めて良かったなって思います。
好奇心が原動力になってるのがすごいなって思うんです。仮に僕が逆の立場だったら、いろいろなパフォーマンスを目の当たりにして潰れちゃう可能性もあるんじゃないかって思ったんです。曲が出来たとしても発表出来ずにしまっちゃったり。
dan子 それが、呼んでもらった企画とかでいろんなことをやってる人を見るのもめちゃめちゃ楽しいんです。こういう生き延び方があるのか!って。
生き延び方というのも、私、日常生活のいろんなことがままならなくて。登校するにもどうしても朝起きられないから、高校のときには自営業の父親にいつも学校まで送ってもらってたりとかするくらいでしたし……大学への受験勉強のモードが耐えられなくって、保健室行って帰ったりとか……考えてからじゃないと喋れないので、昔からずっと喋るのが遅いとか言われたりとか。
いろんなことが当たり前に出来ないことに息苦しさを感じて、自分がうまく出来ない側の人間なんだって思ってたんですよね。
でも音楽を通していろんな人に会うことによって、“この人たちにもたぶん生きづらさがあるけど、それをそれぞれのやり方で、音楽で表現することで生き延びてるんだ!”っていう社会をサバイブする解が見えたんです。
| ラッパーとしてのスタンス
ブログでは思い込みの話もしていて。
”たとえば、「ああいうことをやってる人はああいう考え方なんじゃないか」、とかいう昔からの勝手な思い込みがあるとしたら、ああ、全然そうじゃない、わたしとおなじだ、という発見の繰り返しだ。“
この文章も今のサバイブの話と通じてきますよね。
dan子 自分と全然違うような人でも、同じような部分を感じ取れるときがあったりして。人間の奥深さみたいなものに出会えたときに、実際音楽をやってる人じゃなくてもそういうのがかなりあるし、いつもすごいって思わされます。
これってdan子さんがステージに立つ側になると、全く逆になるよなとも思ったんです。お客さんからしたら、どういう人なんだろう?って思われながら見られることになりますよね。
dan子 こういう感じの人が「ラッパーです!」とか「ez do dan子です!」とか言って出てくることについてを委ねたいというか……だからライブをやってるっていうのもあるんですよね。全部そのまんまの感じでやって、見た人がなにを思ったのかを聞くのが大好きなんです。笑
やっぱり「ハッピーアワー」の歌に繋がりますね!笑
この人となりってきっと変わらないはずだと思うんですけど、これってもう人生を通してのテーマのような楽曲になったんじゃないかと……。
dan子 私の書くものってそういう風になりがちというか。笑
これから会うかも知れない人、聞くかも知れない話、そういうのが楽しみですね。それが面白いから生き続けているし、全ての原動力ですし……スタンスですね!笑
あぁ、スタンス!「これが私のヒップホップ!」っていうスタンスだと考えるとそのマインドこそラッパーですよね。
dan子 確かにラッパーはよく表明しているイメージがある。笑
でもほんとそういう感じです!ラップというものを始めたことによって、人前でもこういう風に言えるようになって。それこそラッパーだと思うんです。
フロウとか曲はラップっぽくないんだけど、例えばゴリゴリのラッパーに対しても「私のスタンスはこう!」って胸を張って歌える曲ですね。
dan子さんの立ち位置、すごくしっくりきました。
dan子 私もしっくりきました……今日は安眠できそうです。笑
ez do dan子『ハッピーアワー』
発売:2019年4月17日
価格:200円
仕様:デジタル / ストリーミング
Spotify / Apple Music / Amazon
※各種サブスクリプションサービスで配信中!
収録曲
1. ハッピーアワー
ez do dan子『ランナー、その後(feat.SudareNdegeochello)』
発売:2019年6月14日
価格:150円
仕様:デジタル / ストリーミング
Spotify / Apple Music / Amazon
※各種サブスクリプションサービスで配信中!
収録曲:
1. ランナー、その後(feat.SudareNdegeochello)
編集部からのお知らせ
ふじーよしたかさんのブログ『音楽八分目』では、このインタビューの続きとも言える<ez do dan子「ランナー、その後」日々を愛してるだけで優勝!>が掲載されています。こちらも併せてチェックしてくださいね。
邦楽インディーズレコメンドブログ「音楽八分目」とデイリーレコメンドタンブラー「Ongaku Wankosoba」を使って、レビューやインタビューやライブイベントをなんやかんやしています。 http://hachibunme.doorblog.jp(音楽八分目) |
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