毛利泰士のマニピュレーターが知っておいて損しない話 | 第0回 目に見えるものが全てだと思うなよ!!!
皆様初めまして。毛利泰士と申します。
オマエ誰だよ?〜と思われるでしょうが、表題のとおり、やはり…マニピュレーターです。色々やっていますが、20年もマニピュレーター推しなわけです。
今回から、このマニピュレーターという聞きなれない職業の方法論を解説するという、なんともニッチで素敵な連載をさせていただこうと思います。そんなの興味ないよ!なんて思うには皆様2小節ほどはやいです。
ライブの知られざる話しがてんこもり、フェス、ライブ好きな君も、レコード会社のすましたアイツも、制作会社の追われるあなたも、そして世の中の孤独に打ちひしがれる現職マニピュレーターのおまえにも読んでいただきたい、そんな気持ちなわけです。長くなりますが、よろしくおねがいいたします!
さぁ、といってもよ…だからマニピュレーターって何なのよ?って皆様そろそろ背中もかゆくなってると思うので、まず第0回と称して、マニピュレーターが何するのか、そもそもの歴史なんかを検証も無しに大体の僕の主観で語らせていただきます。
マニピュレーターって何??
マニピュレーターをまずざっくり説明してしまうと、バンドメンバー以外の音を出してる人です。
あ、これで全てだ…全部言っちゃった…いや、これからだからね!
最近のライブでは当たりまえのことになりましたが舞台にはいないのに、「ストリングスなってる!」とか「本人しか歌ってないけど、たくさん本人の声でハモってる!」「みんな休んでるけどカッコいいリズムなってる!!」なんていう状況がよくあると思います。
そう、それがマニピュレーターの再生している音です。
「あぁなんだ、とりあえずWalkmanポチって押せばいいのか」って思ったあなた!
ノンノン。そんな簡単ではありませんでボワース。
そもそもどうしてこんな事を始めるようになったのか、理由は人それぞれあると思いますが、
例えば!
QueenのBohemian Rhapsody。
だれしもが聴きたいあの名曲。ライブでやらないわけにはいかないが、途中みんなで重ねて録音しまくったコーラス。アレがないとあの曲は成立しない…
「しまったぁ~調子のって作りすぎちゃったよ、フレディー」
「ロジャーもあの最後の高い声出せるかい?」いやぁ~無理ぽ…」
「それよりブライアン最近声枯れてない?」
みたいな話になって悩んでいたら、「じゃぁさ、そこはテープでかければいいんじゃない?」ってジョンが言ったか言ってないかはわかりませんが、とりあえずあの大事な部分がテープで再生されているおかげで、僕らの期待する通りのBohemian Rhapsodyを聴くことができたのです。
このライブバージョンではそのテープへの切り替えをミスってますwどこからテープになったかがよく分かるありがたい動画です。
ときは数年たって、かのYMOの方々はライブをやることになりました。
「やっぱりアレっしょぉ~、シーケンスとかシンセの音がアルバムみたいにならないとさカッコつかないよねぇ」
「ていうか、ライブでもっとナウい事するべきじゃねぇ?」
「クリック(メトロノーム)聞いてやったほうがいいしねぇ、音楽的に」
「あ、そうだ!松武君※さぁ、MC-8(シーケンサーの機種)でアルバム作ったんだし、ライブでも使えばいいじゃん」
「1台で1曲やってる間に、もう1台で次の曲準備すれば間に合うんでしょ~」
「あ!それパネェよ、やろうよ!!」
「…あぁ…うん…」
※松武秀樹さん
元祖プログラミング、マニピューター。この人がいなければ全てがないのである。
みたいな会話だったかはわからないが、それによりコンサートでびっくり仰天な未来な音を人類は体験することができたのです(関係各所ホントにスミマセン…)
FIRECRACKER – YMO 1979 LIVE at THEATRE LE PALACE
このようにして、録音技術の向上とともに、そのままライブでも新しいことをやりたいという欲求から必然的に生まれた職業であります。
僕が所属するオフィス・インテンツィオは、マニピュレーター集団でもありますので技術の進化とともに情報交換しつつ常に新しいやり方を求めて試行錯誤してまいりました。
マニピュレーターのお仕事
一気に話を飛ばして、あくまでも今の僕のやり方を今日は書いてみようと思います。
ライブをするには、リハーサル、その前に準備が必要です。マニピュレーターは事前に再生する音の調整をしておく必要があります。
最近の音楽のデータはほとんどがPro Toolsというソフトで録音、管理されています。1曲の音のすべてが1つのファイルに入っているわけなので、まずはそれをそのままお借りします。
データをコピーしたら(人のデータを直接変更しちゃダメよ)、まずは発売された音源と同じように聞こえるように調整します。Pro Toolsファイルといっても、中に入っているオプション(プラグイン)は人それぞれなので、開いてみないと同じように音が出るかはわかりません。大抵は何かしら互換性がないので調整をします。
一段落したら、自分なりにファイルを整理します。
CDにとって必要な音でも、ライブでやる場合他のメンバーの演奏との兼ね合いで使う必要のない音もでてきます。
その辺の優先順位をつけたあと、すぐにOn / Offできるように並べ替えたりします。
一つ一つの素材を聞いていくと、レコーディング時に皆が気持よくグルーブしていたり意図的にずらして演奏されているものなどある場合、新たにバンドで演奏するのとは噛み合なくなるので、タイミングを修正したりします。
あとは、実際バンドでやってみたらテンポがしっくりこないね、なんてこともあるので必要なものはいつでもテンポを変える事ができるようにしておきます。
最後に クリック(メトロノーム)です。
これを聞く人で一番大事なのはドラマーなので、好きな音色など確認させていただいて合わせておきます。もちろん僕のおすすめYMOクリックもプレゼンします(笑)。各種音色を、その場で8分音符、16分音符等で切り替え出来るように複数張っておきます。
これで1曲の準備は完了です。
これをコンサートだと20曲近くやった後に、各曲の 音の大きさ、聞こえ方が違和感ないように調整していきます。
ここまでが、リハーサルまでにやらなくてはならない準備です。
さてリハーサルに入ると 実際にバンドと合奏です。
一緒にやってみると、音質、各音の定位(右とか左)、タイミングなどいろいろでてきます。人間であればプレイしながら変わっていくものですが、こちらは皆とコミュニケーションとりながら合わせていく事が大事です。
もちろんライブですから曲のサイズを変更したりする場合もあるので、迅速なエディットが求められます。アレンジを変える場合は、新しく音を作ったりパートを作成したりもします。PAの方とも相談しながら、音の大きさバランスをつめていっていよいよ完成かなと思ったら、僕はProToolsからDigitalPerformerというソフトに全曲録音し直します。
この辺は質問があればお答えしようと思いますが、僕にとっては本番にはこっちのソフトがいいのです。
本番時での理想は、ボタンを押したら何もしない事です。
それまで構築していってるのですから何もしないで気持よければ準備が良かったという事でしょう。しかし人間のやる事で、ライブですから当然そうもいきません。やはり何かしら音量をいじったりする必要もあります。
なによりも大事なのは曲のスタートの押すタイミングです。
僕らは曲の前にメトロノームを1、2小節聞いてから曲が出るので、MCが終わりそうなときにカケでボタンをおさなければなりません。あれはなかなかスリリングです。でも曲名言ってから変な間があるのはイヤですものね。
そしてこればっかりはしょうがないのが機械です。
皆様も家でコンピューター使ってて固まった!などということはあると思いますが、やはり固まる時は固まるものです。普段から整理してきれいになっているはずですが、駄目な時は駄目です。
かといって「音が止まっちゃった。エヘ♡」ってわけには行かないので、僕は常にコンピューターが2台まわってます。1台が落ちても1台はかまわず動きます。多分ほとんど気がつかないうちに切り替わってると思いますが、この辺のやり方は連載を読み続けると自然と身につきます!(効能には個人差があります)(笑)
そして最も怖れるのは、「バンドがサイズ間違っちゃった!」です。
基本的に録音されてるものを再生してるわけですから、ずれちゃうとそのあと恐ろしい曲になってしまうのはわかっていただけますでしょうか?
イントロが長い時とかいっつもドキドキしてます。
もしそんなことがあったら、僕は2台目のコンピューターでタイミング合わせ直して切り換えます。もし僕の頭からケムリがでていたら、大体これです。
このようにマニピュレーターというのは、エンジニア的要素とバンドマン的要素を持ち合わせなくてはならない素敵な仕事なのです。
さぁ今日この説明で少しは謎の職業の実態をわかっていただけたでしょうか?
わからない事があったらUROROS編集部(info@uroros.net)まで質問してください。
さて、説明が終わったところで、次回から今日書いたことの実際の方法論、ライブで起こりうるトラブルなどについて細かく触れていこうと思います。
では、長くなりましたが、みなさん今日も寝ルベ(上杉達也氏のセリフより)
(このコラムは、毛利氏のブログ『夢が毛利毛利』に連載されている「マニピュレーターが知っておいて損しない話」をご本人が加筆したものです)
1974年3月10日 東京都出身 B型 上記の経験が生かされた、生演奏とシンセサイザーとコーラスを生かすアレンジには定評がある。 |
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