第十二食『上池袋・京たこのたこ焼き』| 食漂譚~バンドマン東京グルメ紀行~
第十二食『上池袋・京たこのたこ焼き』
text & photo by 淋梅毒(Super Ganbari Goal Keepers)
僕は大学時代ずっと上池袋に住んでいた。アルバイトをしながら宅浪していた期間を含めると、ちょうど5年間。巣鴨高校すぐ裏の、3階建の古アパートだ。間取りは6畳の部屋と2畳のキッチン、そしてユニットバス。池袋駅と、東武東上線の北池袋駅の間ぐらいに位置していた。
池袋というと、「治安が悪いのでは?」と言われることが多々あったが、駅からものの10分も歩けば、かなり落ち着いた町並みになる。どうもドラマ「池袋ウエストゲートパーク」のイメージなどが根深いようだけど、カラーギャングなんてものは見たことはない。もちろん、池袋でカツアゲされたり、からまれたりしたこともない。
アパートからすぐの明治通りに出て、池袋駅方面に行くとその先は高田馬場や新宿だ。「馬場口」の交差点や新宿JAMがある道、と書けばイメージしやすいかもしれない。反対に、逆の方向にずっと行くと王子の飛鳥山公園という桜の美しい公園に突き当たる。その方向に歩くこと約3分。「京たこ」という、チェーンのたこ焼き店がある。
たこ焼きチェーンというと、銀だこが真っ先に思い浮かぶ人も多いだろう(僕もそうだ)。実際京たこは都内にいても店舗をほとんど見かけることがない。ちなみにこの上池袋の店は、京たこのサイトにはなぜか載っていなかった(どういう扱いなんだろう?)。
肝心のたこ焼きそのものに関しては、銀だこが油をたっぷり使い、たこ焼きというか揚げだこと呼んだ方が合うようなカリカリさ、つまりホットスナック的な要素を重視しているのに対して、京たこは対照的にフワフワさと大玉感が特徴で、主食のようにいただける。そういうふうに僕は位置づけている。ちなみにマイナーな方を応援したくなるのが僕の性なので、どちらかと言うと京たこのファンだ。(同じように、王将と満洲ではぎょうざの満洲派、ココイチとC&Cではやはり後者派だ。)
今回久しぶりに店を訪れると、4年前と変わりなく営業していた。年配のおじさんが奥で材料の整理をしており、焼きと接客は若い人(おそらく息子さん)がやっていた。
ここの京たこは店内でも食べられる。若干薄暗いカウンターに3席。厨房に置いてある小さい液晶テレビを見ながらたこ焼きを食べる。値段は8個入りで500円+税。ソースは甘口、中辛、辛口(唐辛子パウダーが練り込まれている)、しょうがじょうゆの4種類から選べる。
やはり銀だこよりこちらのほうが僕には合っている。柔らかい食感で、穏やかな味わいだ。ネギの風味と甘みがしっかり感じられ、タコも大ぶりだ。
この場所に住んでいた5年の間で、町の作り自体は大きく変わってはいないけれど、通りの店々はコロコロ変わった。ショップ99はローソン100へ。個人経営のレンタルビデオ屋は「借りてる途中のお客さんには、そのビデオあげます」といった張り紙を最後に、リサイクルショップへ。テンプレ的なインド料理屋は、もつ焼き居酒屋へ。サンデーマートはマルエツプチへ。
道を挟んで京たこの向かいにある、映画好きの店主が営むリーズナブルなレストランは、10週年の節目で閉店していた。今度この連載で取り上げようと思っていた。もう2週間早く訪れていれば最後に食べることが出来たのに、残念で仕方がない。
通り過ぎる人々にとっては「長い間ありがとうございました」と書かれた一枚の紙切れに過ぎないけれども、その店を営んでいた人にとって廃業や閉店は人生の一部が失われるようなものだ。一体どんな思いで最後の営業日を過ごし、エントランスの鍵を締めたのだろう。
たこ焼きを食べ終え店を出るとき、お店の人が「おおきに」と声をかけてくれた。この京都弁の声掛けは、初めてこの店に来た時からずっと変わっていない。
「おおきに!」
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次回は『御茶ノ水・東京医科歯科大内「あるめいだ」のアップルパイ』をお送りします。
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淋梅毒(りん・ばいどく)
現在OTOTOYで両A面シングル「レコードコレクターズ / 世界は俺を中心に終わっている」の配信と、特設サイト「SGGKメンバーが影響を受けた50枚」を公開している。 twitter: SGGK代表曲「植物人間系男子」PV |
SGGK ライブスケジュール 日程:2016年4月2日(土) 出演: チケット取り扱い: |
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