2018-01-09 11:00 Fuhito Kitahara

土井玄臣、ニューアルバム『針のない画鋲』3月9日発売決定。静けさと浮遊感をまとった作品に

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土井玄臣(どいもとおみ)が、ニューアルバム『針のない画鋲』を3月9日(金)にリリースすることになった。

 
土井玄臣は、繊細で中性的なハイトーンボイスと、詩性の高い言葉で紡ぐ歌詞の世界で異彩を放つ大阪在住のシンガーソングライター。

 
今作は、配信リリースされた前作から2年3ヶ月、フィジカル作品としては4年9 ヶ月振りとなる新作アルバム。新曲に加え、「日々」や「マリーゴールド」といったライブで人気を博している楽曲も音源化。また。くるり主宰・NOISE McCARTNEY RECORDSのコンピレーションアルバムに収録されていた、デビュー曲とも言える楽曲「終点はあの娘の家」も新たにセルフカバーにて再録される。

 
サウンドはほぼ全編ドラムレスの、ギター、鍵盤、そして少しの電子音というミニマルなもので、余計な装飾がない分、艶のあるファルセットボイスや、文学的な歌詞、そしてメロディーメーカーとしての才といった個性が一層際立っている。

 
内省的なフォークアルバムでもあり、Frank Oceanらの諸作を彷彿とさせる、所謂アンビエントR&B的な響きもある、独特の静けさと浮遊感をまとった作品に仕上がった。

 
アルバムタイトル『針のない画鋲』は、役に立たない、存在価値がない、でも優しいものを表現。それらを捉えそっと光を照らす、悲しみと慈しみを湛えた眼差しで描きだしている。

 
 

 
土井玄臣『針のない画鋲』

発売:2018年3月9日(金)
価格:2,000円+税
品番:NBL-223
レーベル:noble

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収録曲:
1. みえないひかり
2. ハート
3. 日々
4. 謎 
5. やさしいピリオド
6. 終点はあの娘の家
7. そこにてる
8. マリーゴールド

 
※nobleオンラインショップ購入特典
アルバム未収録音源2曲のDLコード付きポストカード
http://noble-label.shop-pro.jp/?pid=126993131

 

田中亮太氏によるアルバム解説

 
Homecomingsのファースト・アルバム『Somehow, Somewhere』にも多大な影響を与えた〈夜〉がテーマの前作『The Illminated Nightingale』から約4年、遂に土井玄臣が新作を完成させた。『針のない画鋲』と題された同作は、たおやかなギター・サウンドと優しいアンビエンスを醸したシンセサイザーが交差するなか、無垢な子供ような、あるいは悟りきった聖人のような土井の歌声がゆっくりと、だが僅かもふるむことなく歩んでゆく。驚くことに、このアルバムでは、前作の特徴であった打ち込みのビートはほぼ出てこない(ある一曲のみにて、とても大切に鳴らされている)。にもかかわらず、ソングライティングとアレンジの躍動感や推進力が、不在のはずのリズムをこれまで以上に感じさせ、エモーションを加速させてゆく。

全編に漂う穏やかな浮遊感はブライアン・イーノの諸作からトロ・イ・モアの『Boo Boo』、デッドボーイの 『Earth Body』にいたるアンビエントの系譜を彷彿とさせ、エロスとタナトス両面への願望を併せ持つ生々しい艶にはフランク・オーシャン『Blonde』がよぎる。ゆえに、『針のない画鋲』は極めて内省的なフォーク・アルバムでありながら、時流に照らし合わせて言えば、神聖さをそなえたR&Bの一種のようにも聴こえる。

「もういないきみの/すぐそばにいる」こんな言葉から始まるアルバムを貫ぬいているのは〈喪失〉だ※。「彼女はさみしい色を連れ出して/ひとの心に塗り込んでは/そこからすぐ逃げた」「今も思い出は/壊れたまんまで/泣きだすんだよ」主人公は、ここにいない誰かの幻影から目をそらすことができない。眼差しを外したとき、それは消えてしまうから。
※以下、「」内は歌詞の引用

その一方で彼は、願いは果たされた瞬間から錆びていき、眩く輝いて見えたそれもハリボテにすぎなかったと、成就するやいなや気付いてしまうことも知ってしまった。「触れると枯れる花を抱えていた」「きみがその手を 放した途端に/魔法が解けてしまったみたいにさ」甘美な想い出を辿る言葉を並べた音楽は、静けさの背後に悲痛さを忍ばせている。

もはや魔法を信じることもできず、かといって残像を消すこともできない。過去に立ち戻ることも未来へと舵を取ることもできない日々は、さながら煉獄にいるかのようだ。だが、この歌い手は生きていくことを綴る。

「繋がりたいから/ここにいるんだよ/またみたいから/ここにいるんだよ きみのこしらえた/謎に挑むんだよ/さようならの挨拶の振り向いたその顔にもひとつずつ解決を/そうやって進むんだよ/意味の無い日を/いつまでも紡ぐんだよ 終わらない日々の/地獄にも耐えてゆくよ ただきみにふれたいのさ/意味なんかない」

そのとおり。恋に落ちることも、愛の終局も、幸福な記憶も、家族を持つことも、子供を授かることも、音楽も、詩も、冬の澄み切った空気も、なんの意味もない。我々の生は確かに〈針のない画鋲〉のように、役立たずで無価値だ。しかしながら、誰がそれら一切を捨て去ることができようか。このアルバムは、一文の得にもならない過去の遺物に埋もれ、何者にもなれぬまま、腐りかけながら生きることへの赦しだ。ゆえに、『針のない画鋲』は、2018年においてもっとも切実で、もっとも美しい宗教音楽である。土井玄臣が歌うように「どこまで逃げても/ここにひかりが届く」のだ。

田中亮太

 



 
土井玄臣(どい もとおみ)

大阪在住のシンガーソングライター。
2010年に発表した自主制作盤『んんん』は、無料配布(希望者が土井のホームページへリクエストのメールを送ると、後日郵送でアルバムが届くというもの。現在は配布終了。)という形態でリリースされ話題になる。
2013年6月、自身が「正式なファースト・アルバム」と位置付けるアルバム『The Illuminated Nightingale』をnobleよりリリースした。
2015年12月、配信限定EP『ぼんやりベイビーEP』をリリース。
2018年3月、ニューアルバム『針のない画鋲』をリリースする。


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