第二十一食『小竹町・ラーメン一番のラーメンと豚辛子漬』| 食漂譚~バンドマン東京グルメ紀行~
第二十一食「小竹町・ラーメン一番のラーメンと豚辛子漬」
text & photo by 淋梅独(Super Ganbari Goal Keepers/蜃気楼)
バンド練習などで東京に出る際に車を使うようになって以来、環七を通るたびに気になっていた黄色地のすすけたテント看板。ラーメン二郎でもないし、夜しか開店していない。約二年くらいずっとどんなラーメン屋なのかなと横目でチラチラ見ていたが、先日ようやく行ってみた。
場所は練馬区小竹町。練馬区と板橋区の区境に位置するこのラーメン店は、「ラーメン一番」という。前述の黄色いテント看板も、内装もかなり年季が入っている。また、予想に反して行列ができており、家族連れもいた。遠征ラーメンフリークが訪ねてくるというより、地元密着型の行列店なのかなと思った。
近くのコインパーキングに車を停め、行列に並ぶ。8月に入ったばかりだ。夕暮れ時とはいえ暑い。手持無沙汰なので、スマホでこの店の情報を調べてみる。
…驚いた。ちゃんと立派なホームページがある。オンラインストアもあるし、ブログの更新頻度も頻繁だ。実際の古びた店構えとのギャップを感じた。
カウンター10席の店でそこまで回転も速くなく、行列はあまり進まない。交通量の多い環七(正式名称は東京都道318号環状七号線)に目をやり、日が沈みヘッドライトを点灯させ始める自動車群を眺めながら、ふと考えた。
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自動車を初めて所有してから、2年が経った。富山の実家で母親が乗っていたクルマをおさがりでもらったものだ。トルネオというホンダ製のセダンで、2000年に生産されたアコードの姉妹車だ。
トヨタでいうカローラ、日産でいうサニーのような、スタンダードな大衆車。元々近所への買い物くらいにしか使っていなかったようなので状態は悪くないが、何しろ15年以上前のクルマなので、はっきり言って中古車屋に持っていっても1万円になるかならないか位の価値しかない。ただし、今ではもう存在しない車種でもありかなり愛着がある。楽器もそうだが、自分で操作・操縦できる機械には心が宿っている気がして、昔からあまり簡単に手放したりはできないのだ。
バンド練習や、ライブを観に車で来た、と言うと若干「え?」みたいな表情をよくされる。何となく言いたいことは分かる。都心に住んでいる人にとっては電車移動が当たり前だし、限りなく車移動バンドマンは少数派だからだ。かくいう自分も、実際に自分の愛車を得るまで時間がかかってしまったので偏見をこじらせ、若い人や自分と同じ年くらいの人が車を持っていると聞くと、「贅沢だなー」「そんな使う必要ほんとにある?」みたいな感情がどうしても先に来てしまう。
ただ、自分の状況を改めて考えてみると
・30代
・駐車場代が安い(春日部は月4~5,000円台が相場。自分のアパートは無料。山手線内だと最低25,000円かかることもざら。)
と考えると、持っていても別段変でもないかなとも思える。
一度、車を手放したと仮定して、土曜と日曜の休日どちらも都内に電車で出かける生活スタイルに戻った場合のかかる費用がどのくらい違うのか計算してみたことがある。結果から言うと、やはり車を所有している方がコストはかかる。目的地を新宿に設定した場合、
【電車ライフ】
春日部⇔新宿は片道772円(suica)なので、 772円×2(往復)×2(土日分)×4(4週)=12,352円 →大体ひと月 12,000円(それでも電車って意外と蓄積すると高いのね…) となる。 →大体ひと月 19,000円
・終電を気にしなくてもよい(その代わり呑めないが…)
・大量の荷物・機材を楽に運べる ・遠征費用が安くなる(レンタカーを借りなくてもよい) ・人込みを避けられる(駅、満員電車) ・探せば意外と安いコインパーキングは都心にもある(駅からしばらく歩くが、20:00~翌朝まで300円とか、昼間12時間停めていても1000円とか) ・駐車場無料の練習スタジオがある(阿佐ヶ谷zotや、ゲートウェイ高田馬場戸山口店など) ・何かあったときは人を送って行ってあげたり、迎えに行ったりできる ・最悪車中泊可能 |
また、このシェアリング文化のご時世、自動車保有者に嬉しいサービス(アプリ)も増えている。
まずは、「Anyca」というDeNAがやっている個人間カーシェアリングサービスだ。これは、所有している自動車を使ってない日に他人に有料で貸し出すアプリ。
次に、「notteco」というライドシェアサービス。
ざっくりいうと遠方に行く際に同じ目的地に行く他人を募集して空き席に乗ってもらい、かかった高速代とガソリン代を折半する相乗りサービスだ。こちらは利益を出すと白タク行為となってしまうため、あくまで実費をワリカンしてそれ以上はもらってはいけないことになっている。
僕は年末年始、GW、お盆の三回は毎年実家に帰省するのだが、北陸新幹線で富山に行く場合、片道12,000円かかる。一方、車の場合は高速代とガソリン代合わせて大体10,000円だ。もし一人相乗りの方が見つかれば、二人で折半するので5,000円で済むことになる。おまけに、相手さえ良ければ疲れたら運転を交代してもらうことも可能だ。お金を節約できるだけでなく、道中もなかなか楽しかった。国内旅行が趣味のベトナム人女性グループ。登山家の若い夫婦。オタク友達が開くオフ会に行く、高卒で就職したばかりの若い男の子。東京に単身赴任しているおっちゃん。この約一年で、色々な人を乗せた。
一応書いておくと、こちらのシェアサービスの方は現状株式会社nottecoが提供しているプラットフォームに過ぎないので、万が一トラブルが起きても当事者同士で解決の自己責任となる。お金のやりとりも、直接だ。
自分の親世代(60代)の人々なんかは、「知らん人乗せるなんて何考えとんがいね。」「危ない人だったらどうすんがいね。」などかなり不信感を持っているが、見方を変えれば、あらかじめ連絡を取り合って集合時間場所・費用を決めたうえで行うヒッチハイク、と考えれば、まあそこまで訝しむことはないんじゃないかなと考えている。
と、ここまで車の良いところを色々と述べてきたが、公共交通機関にはない致命的な欠点がある。それは、万が一の場合自分が被害者になるのではなく、加害者になるという危険性があることだ。いくら便利とはいっても、国民が一番沢山持っている免許とはいっても、所詮は人間の力を遙かに超えた機械だ。あえて自分が言うことではないかもしれないけれど、凶器だ。
無類のクルマ好きで、自動車メーカーの社員すらも舌を巻くほどの知識量を持つTBSアナウンサーの安東弘樹さんも、車への愛を熱烈に語る一方、口を酸っぱくしてこう言っている。
勿論、私も、愛するクルマを凶器に変える可能性は有ります。
その上で、お願いです。どうか皆様、クルマに乗り込む時、その様な緊張感を持って毎日運転に臨んで下さい。
http://gazoo.com/ilovecars/column_andou/170216.html
クルマは「命を乗せて」走り、場合によっては「命を奪う」可能性も有る道具です。テレビや洗濯機、冷蔵庫の構造を知らなくても命には関わりませんが、クルマに関しては知識が有る、無しが、生死に直結します。
http://gazoo.com/ilovecars/column_andou/160126.html
アッコにおまかせに出ている人、くらいのイメージしかなかったが、氏の文章を読んで、非常に熱意をもって理知的に問題提起をし続けている方なのだと印象が変わった。
社会にはヒトの力を極端に超えたものが溢れている。自動車の他にも飛行機、高層マンション、拳銃、原発。歴史にも不可逆性があって、僕たちはもう便利な生活を放棄して太古の狩猟・農耕民族に戻ることは無理だ。ただし小突き合いのケンカで済んでいたものが、エスカレートして戦争になる。落馬程度で済んでいたものが、交通事故になり、飛行機事故になる。てこの原理のように、力点で働いた小さなミスやいざこざが、作用点ではとんでもないパワーになって、最悪人命にかかわることとなってしまう。
最近でも、ラスベガスのカントリーミュージックのライブ会場で58人が亡くなる銃乱射事件が起きた。
(注)残酷なシーンはありませんが、銃声などが含まれています。
日本でも妨害運転を繰り返された末に東名高速上の追突事故で夫婦が亡くなるという事件が明らかになった。
当事者ではないから何となく直視せずにいられるかもしれないが、人の力を超えた機械が存在するがゆえの事件・事故に目を背けたままで本当にいいのか、ときおり複雑な気分になる。
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「レン、レン!順番来たぞ!」
同行した友人が自分を呼んだ。会計を済ませた小さい子を連れた4人家族と入れ替わりに入店する。
ラーメンの正油味(750円)と、持ち帰りも可能な豚辛子漬(辛味調味料で漬けた豚肉の角切り)を頼んだ。若い店主さんを含め3人ほどの店員が大変手慣れた様子で注文~調理~配膳をこなしてゆく。接客も威圧感などは一切なく、大変気持ち良い。
ラーメンが運ばれてきた。…かなり丼が大きい。背脂が軽めに入ったとんこつ正油スープは、程よい甘さで優しい味。コーン、もやし、ねぎ、メンマもスープにマッチしており、色味も黄色・クリーム色・白・黄土色と統一感がある。麺は中細のストレート麺。もう少し固めで注文してもよかったかな。チャーシューが何より心動かされた。面積が広めで、脂身はそこまでないが肉自体の旨みと味付けの土台がしっかりしており、麺を巻いて食べたらウマい。
豚辛子漬を味変アイテムとして使ってみる。スープに赤色がにじみ、アクセントとなる。意外と豚の歯ごたえがあって、相当辛いので瓶ビールのイメージが頭をよぎった。
結構麺量があるので、大盛りにはしなくても腹いっぱい。寒い冬にはさらに美味しいこと間違いなし。
重たくなった腹を抱えながら運転席に着座し、帰路についた。
♪今月の一曲 美輪明宏 / 老女優は去りゆく
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次回は「錦糸町・アジアカレーハウス」をお送りします。
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お知らせ
コラム『食漂譚~バンドマン東京グルメ紀行~』は、毎月15日をめどに更新する予定です。
SGGK & 蜃気楼 ライブスケジュール 日程:2017年11月11日(土) 入場料:2,500円+1ドリンク(500円) [出演] [Food] [内装]ヤバイネーション
蜃気楼初企画『(タイトル未定)』 日程:2017年12月15日(金) 出演: |
富山県出身。Super ganbari goal keepers、蜃気楼の二つのバンドで活動中。
蜃気楼 2017年本格活動開始。MV「童謡」を公開中。 Super Ganbari Goal Keepers(スーパーガンバリゴールキーパーズ) 2011年に結成。略称SGGKとして都内で活動中。 SGGK代表曲「植物人間系男子」PV |
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