HARCO活動20周年インタビュー。フルアルバム『あらたな方角へ』リリースと、HARCOのピリオド。そして、青木慶則のはじまりへ。
1997年にデビューし、今年で20周年を迎えるHARCOが、ニューアルバム『あらたな方角へ』を6月21日にリリース。さらに、2018年からはHARCOという名義を改め、本名の青木慶則として活動するという。突然の決意表明と、新譜への思い、そしてこれからの青木慶則とは?
● そんなことは禁断の恋だ! そう思っていながら
今作、HARCOとしての最後のアルバム『あらたな方角へ』は、すごく20周年の集大成という感じの仕上がりになっていますね。 最初ポップな感じに始まると思ったら、アコースティックなものが入っていたり、コラボレーション曲もあり……なんだか”HARCO”が全部入ってるような、欲張りなアルバムというか。やはり制作の際には、これで最後だ、ということをかなり意識する形になりましたか?
HARCO そうですね。20周年ということ、それから、来年から名義を変えるということで、HARCOとしてのラストアルバムという、かなりそのあたりは意識しました。 いつものアルバムとはスタンスが違う作り方になりましたね。20年前の『POOL』を踏襲するような方向で制作した時期もありましたし。
アルバムの構想はどのくらいからですか?
HARCO 前作『ゴマサバと夕顔と空心菜』を2年前に作り終えてから1年くらいはツアーをやっていて。あとは映画や演劇だったりといったHARCO以外の仕事もやっていて。なので、ちょうど1年前くらいから曲作りを始めました。
つまり、1年前にはすでに青木慶則、に名義変更をしよう、ということを考えていたということでしょうか。
HARCO 実はそれよりもっと前から、いつか変えたい、とは思っていました。というのも、そもそもHARCOを始めたときは、「一生のうち1回は自分で歌を歌って、作品を残してみたい」という気持ちだったんです。それで生まれたのが『POOL』で。でもその後も順調に続いたので、じゃあ10年くらいやろうかな、と。でも僕、裏方願望が常にあるので、ゆくゆくはやっぱり、作る専門に回ろうかなと思っていたんです。で、結果的にはどんどん面白くなってきたのと、ありがたいことにHARCOの名前が浸透していったので、じゃぁずっとこの名前でいこう、と心に決めてもいたんですが。
でもやっぱり1年前、今回のアルバムのために曲を作ろうとしたときくらいから、その「名前を変えたい」という自分の気持ちにあらがえなくなってきていることを自覚して。いや……いけないいけない、そんなことは禁断の恋だ!と(笑)。そう思っていながら、家で曲を作っていたんですが、なんだか本格的に行き詰まってしまって。今までも曲づくりに行き詰まることがあっても、丸1日時間を無為にすごしてしまうくらいで……まあクリエイティヴ系の仕事あるあるですよね。でも今回のその詰まり方ってのは、いつもとちょっと違う感じがして。
違う、というのは?
HARCO HARCOとして曲を作ろうとすると、全然メロディが出てこなくて困り果ててしまった日が続いてしまって。あー本名だったら作れるのになー!と思うようになってきたんです。
えっ、実際本名だと書けたんですか?
HARCO いや、といっても、まだその名前で書いたことがないから書けるかどうかはわからないんですが(笑)。けれど、青木慶則として作って、それをHARCOとして出す、というのも違うなー、なんてぐちゃぐちゃ考えたりして。
向き合い方がすごく真面目!
HARCO やっぱり20年目のアルバムだし、ちゃんといいものを作らないと、という気持ちは強かったので。じゃあ発想を転換して、以前からエレクトロニックな曲が詰まったアルバムも出したかったし、そういうアルバムを出そうと思うようになってきて。
2~30年前にシンセポップというジャンルがメインストリームだった時代があって。元々そのあたりに影響を受けてHARCOを始めたところがあったんです。で、今もまた海外でここ5~10年くらい、あの頃のシンセポップを再現しようとする若い世代が結構目立ち始めてきていて。だから今と昔のシンセポップを両方聴きながら、インスパイアを受けた曲を一時期たくさん作って……そうしている内にひらけてきて。で、やっぱりそういうアルバムを作ろう!と思って一度は突き進んだんです。
HARCO ニューアルバム『あらたな方角へ』トレイラー(全曲試聴)
1曲目がそのシンセポップですが、「Monday Mornings」、これすごく好きです。
HARCO この曲は忙しい朝のイメージなんですが、HARCO&METRO(HARCOのグッズを制作する目的で10年ほど続けていたアパレルブランド)の倉田直幸くんが好きな、ピーウィー・ハーマン(アメリカの俳優ポール・ルーベンスが生み出したキャラクター)っていうコメディのパントマイマーがいて。「△@:*|#$%&’!」みたいな感じに動くんですが。(※せわしなく動くHARCOさんをなんとなくご想像ください)
みなさんに、文字にしてお見せできないのが残念です(笑)
HARCO (笑)中途半端に未来っぽい機械が登場して、ボタンを押すと目玉焼きとかネクタイとかを出してくる、みたいな。あとはウディ・アレンとか。そういう、ちょっとこう、挙動不審なくらい慌ただしい主人公が朝バタバタしてるみたいなイメージ。でも僕のことじゃなくて、普遍的なサラリーマンの朝をイメージして、言葉で遊んだという感じです。
なるほど。『ゴマサバと夕顔と空心菜』のころはCoa三部作あたりに還ったというような話をされていたと思いますが、今回、はじめに聴いたとき、今度はデビュー近くのところを意識したのかな、と感じたんです。ところが聴き進めていくと……。
HARCO そう、3曲めからは、わりとオーセンティックなバンドサウンドに。まあもちろん、なだらかに繋がるようにはしたつもりですけれど。
● 自分から遊ぼうよ!って呼びかけるタイプ
今回は共作がたくさん詰まっていますよね。
HARCO HARCOバンドの伊藤健太(以下イトケン)がTwitterで、このアルバムを「Middle of the road!」って言ってくれてますが、略すとMOR。AOR(Adult oriented rock)も好きだけど、そこまで大人っぽさを強調しすぎないシティポップ、というあたりが、究極ではやっぱり僕、いちばん好きなんですね。
で、そういうMORなスタイルの曲を、僕が企画したイベントで、共演したアーティストたちと何曲も作ることができたんです。
昨年の「HARCOの春フェス」では山田稔明さん(GOMES THE HITMAN)と、山崎ゆかりさん(空気公団)、それから同秋の「HARCOとイトシュンの秋フェス」では伊藤俊吾さん(キンモクセイ)、さらに今年の春の「三汁七菜(さんじゅうしちさい)」では早瀬直久さん(べべチオ)、田中潤さん(ゲントウキ)という、それぞれとても豪華なゲストのイベントでしたね。
HARCO 前回の『ゴマサバ』でも、堀込泰行さんと杉瀬陽子さんと作った「口笛は春の雨」があったんですが、収録した共作曲はその1曲だけでした。
20年間HARCOをやってきて、その中の核になる部分として、企画イベントをたくさんやってきたというのがあるんです。HARCOプレゼンツと銘打って、「FastSync.」「KI・CO・E・RU?」、もっと前だと「FROM RAG TIME TO NO TIME」とか。通算3~40回は開催したんじゃないかな。
僕は、友達に自分から遊ぼうよ!って率先して呼びかけるタイプで。待ってられないというか(笑)。でもある時期から、ライブで共演しても作品としては残らないから、アルバムの中でもっと共演していきたいなと考えるようになって、いわゆるコラボレーション曲というものを増やしてきたんです。CMソングがきっかけのカジヒデキさんとの楽曲「BE MY GIRL ~君のデイリーニュース~」のシングルで、カップリングにベベチオ、キセル、ビューティフルハミングバードとのコラボ曲も入れたのがスタートかな。
今回は、どんな風に作られたのでしょうか。
HARCO ベベチオ&ゲントウキとの共作「期待の星」と伊藤俊吾くんとの共作「秋めく時間たち」は、そのパートを作詞作曲した人が歌も歌って、というルールで、主にメールでやりとりしながら作りました。最終的なアレンジはどれも僕が担当してます。
曲の方向性は、例えばライブが春だったときなら「春で!」というシンプルな感じで。僕が大好きなミュージシャンにオファーするわけだから、好きなものができるって信じているので。
ゼロからつくることを前提に仕事をしているひとたちなので、一緒になにか協力して作り上げるって楽しいことだけど、やっぱりどこかしら体が緊張するというか。それをほぐしてあげたいけど、完全にはできないから、そのぶん内容は自由にと言いたくて。
「春のセオリー」はどういう感じで?
HARCO 山田稔明くんに詞をお願いしました。彼は若い女性アーティストを中心に普段から詞を提供していたりして、そういう仕事も増えてきているみたいなんですが、すごくニュートラルに「提供という形のなかで久しぶりに心底納得する詞が書けた」って言ってくれたのが嬉しかったですね。
この歌詞、ライナーノーツでも書かれていますが、スゴいですよね。「新しい名前で呼ばれて振り返る」「僕らは三叉路に立ち地図を読む」とか。……預言者?
HARCO そうなんです!この歌詞のことを書いてくれた時はまだ改名の話なんて一言も言ってないのに。Y字路をテーマにしたジャケットも、この詞があったからというわけでもないんですが、完成したあとに「そういえばここに書いてあったな」って。山田くんはシャーマンなのかも(笑)。
(笑)アルバムの中で3曲も、友人として関わってきた人たちと大切に作った曲があるっていうのは、企画をたくさんやってきたHARCOさんには欠かせないエッセンスを表現するのに必要だった、ということですね。
HARCO そうですね。今回のアルバムにその3曲を全てどうしても入れたい、ということになったとき、それらとさきほど話したエレクトロニックな方向で作った曲たちを、うまく1枚のアルバムにおさめられないかな、というのが結構大きな課題でした。そうでなくても、20周年としての集大成になるような、いろいろ詰め込んだ贅沢なものにしたかったことは確かで。
お友達といえば、今回はAdi Nadaさんも『Lamp&Stool』以来7年ぶりに参加されていますよね(当時は和津実名義)。
HARCO 彼女の声がすごく好きなんです。こぶしがあるというか、どこかソウルフルで。
ご本人はすごくかわいらしい感じですが、甘すぎない声、というか。これからの青木慶則を予感させるエッセンスのひとつになっていると思いました。
HARCO そう思ってもらえるとうれしいですね。
● 一度やってみたかった”お蔵出し”
先にバックトラックを録っていた曲が2曲も入っているようですが。
HARCO 「北斗七星」と、タイトルにもなっている「あらたな方角へ」は、ラストアルバムということが決まってから、レコーディング寸前に急遽リストに加えました。
参加アーティストクレジットに、10年前くらいによくHARCOさんのアルバムに参加されていた、ギターの松江潤さんやベースの須藤俊明さん、ドラムの笹井享介さんの名が連ねてあったので、不思議に思ったんです。これらは、アルバム「KI・CO・E・RU?」に入れるつもりで録音していたバックトラックに、ボーカルだけを最近録られたということでしたが。
HARCO 『KI・CO・E・RU?』は10曲なんですが、じつは12曲録っていたんです。当時の記憶では、たしかもう時間がなくなってきたから、この2曲は泣く泣くあきらめよう、ってことでカットしたような気がしていたんですが。でもそのころのブログを読み返していたら、『KI・CO・E・RU?』は12月の発売だけど、レコーディングはもう9月くらいには終わってるんですよ(笑)
ということは本当はずいぶん余裕がありますよね。
HARCO うん、なので多分、その2曲をふいに入れたくない気持ちになっただけのところを、周りに対してもっともらしい理由をつけたのかなあ、と。
あとは、レコーディングしたのに入れてない、っていうのを一度やってみたかったのかも(笑)。海外の大物アーティスト感があるじゃないですか、「じつは30曲録ったんだけど、これしか入れてないのさ。」みたいな(笑)
それを10年経ってからお蔵出しする、っていう、のがまた大物っぽいですね(笑)
HARCO その2曲を入れることでバンドサウンドの割合が増えるので、そこにエレクトロニックな曲が3曲に1曲くらい聴こえてくる、みたいなバランスにすればいいのかな、と。それがレコーディングの始まる寸前、2月末の打ち合わせでようやく固まったんです。
そこから、3ヶ月くらいでレコーディングは一気に駆け抜けた感じですね。いつものHARCOさんだと、割とじっくりと向き合っているイメージがあるので、それは意外でした。
HARCO 曲がある程度そろってから今回のレコーディングが始まるまでは、結構時間があったにもかかわらず、前述のように行き詰まったりもしていたので結果的に遅れてしまったんですよ。だからもう、あとは時間との戦いでしたね。
今回はそうやって、レコーディングがなかなか始められないなか、逆に自分自身とはゆっくり向かい合う時間があったからこそ、名前を変えてやる!と決断して最後に向かっていけたというか、そういった部分もあったかもしれないですね。
HARCO たしかにそうですね。毎日忙しくしていたら、変わらずHARCOとしてずっと続けていたかもしれない。
● やっぱり歌が好き
「TOKIO」はなぜカバーしようと?
HARCO 実は今回のアルバム、「東京テレポート」と「TOKIO」で、2曲も東京が入ってるんです。これ自分でも完成してから気づいて(笑)。
これは自分でセレクトしたというよりは、去年の秋に『PEACEFUL2』という男性ボーカリストによる全曲がカバーのコンピレーションアルバムに参加したトラックが元になっていて。
この曲の元の形でもあるフォークトロニカな方向は、平野航さんという方がアレンジをしてくれていて。僕はそこにHARCOバンドで参加してくれているダイちゃん(榊原大祐)のドラムを混ぜたりして。普通にドラムを録るついでに、単音のサンプリングもしていたので、後からプログラミングしたんです。
原曲の荒々しさに比べて、すごく穏やかでかわいい音になっていますよね。
HARCO 『KI・CO・E・RU?』の中で「水中バギー」という曲を、fishing with johnの五十嵐くんと、神森徹也くんに参加してもらって作ったんですが、そのときもフォークトロニカ仕立てにしていて。でも、それ以来なんですよね。で、その「水中バギー」も「TOKIO」も、すごく僕の声にマッチしているなと。わかっていても、なかなか自分ではここまで作れないというのがありますね。
少し違うスパイスが加わるのは面白いですよね。
HARCO あと、原口友也くんという人がいるんですが、彼が今回のアルバムの隠れキーマンというか。タイトルナンバーでもある「あらたな方角へ」という曲は、やはりバックトラックが10年前に録音されたものだったので、このギターを弾いてくれたのが誰だったのか、探し出すのにすごく苦労したんです。アルバムに収録されなかったからクレジットもされていないし。当時のブログの写真や、メールから片鱗を探してみたりとか……。
見つかってよかったですね!
HARCO 当時原口くんはone toneというユニットをやっていたけれど、今はメロディー・パンチというCM音楽制作会社でプロデューサーとして働いていて。元々のTOKIOを収録した『PEACEFUL2』は、そのメロディー・パンチの企画プロデュースだったんです。で、彼がその担当だったので、僕のことをオファーしてくれたんです。
なるほど、そういう経緯だったんですね。
HARCO 彼、すごく面白い人で。ギタリスト当時もすごくアイデアマンで、『KI・CO・E・RU?』の1曲目「ホームタウン」でも、いろんなギターを弾いてくれて。
今回「TOKIO」の曲を歌った時も「青木さん、もっと力抜いてください」「もっともっと」みたいな感じで。それでこういう歌い方になったところがあるんです。キーも低かったこともあって、いつもの僕の歌い方じゃないみたいになってる。でも逆に、それがすごくいい効果というか、質感になっていて。
なんだかこの曲、歌なのにインストみたいな魅力がありますよね。HARCOさんって、歌モノももちろんすごくいいのですが、近頃は「京太の放課後」のような映画音楽なども手がけているので一層思うのかもしれませんが、インストがとりわけウマいというか、なんというかもう抜きん出てるというか。
HARCO 本当の気持ちは、歌が好きで。歌うこともですが、特に歌を「つくる」ことが大好きで。でもやっぱり、今言ってもらえたように、よくインストを褒めてもらえるんです。
今回も、名義を変更するという話を何人かのお世話になっている人にしたら「これからはインストやりなよ!」って、勧められてしまって。
いいですね!両方できたら。
HARCO それが割ともう「歌はもういいんじゃない?」くらいの勢いで言われるので。
うわあ(笑)
HARCO 今の僕は、今後も仕事にしたい”歌”を一本の頼りないロープでかろうじて掴んでる、みたいな感じになっています(笑)。
● ちょっとビターになりたい
実際、青木慶則として進むなら自分自身ではこういう風にしたい、という構想はありますか?
HARCO 宣言したときは、変わらずにアルバムを作っていってライブをして、という基本のスタンスでそのまま、と思っていました。でも違うルーティンを試してもみたいし、それ以前に音楽性はちょっと変えたいなと。
どのような方向にですか?
HARCO 言葉にすると難しいのですが、もう少し色気のある大人のポップスを歌っていけたらいいなと。矢野顕子さんたちをはじめ先人たちがやってきているような、ポップスとジャズのクロスオーヴァー的なものとか。それとやっぱりMOR、AORが好きなので……。でもAORまでいってしまうと声が合わないと思うので、その手前あたりかな。それがピアノ一本になったりとか、バンドサウンドになったりとか……。今までやってきてることと特に変わらない(笑)? でもとにかく、ちょっとビターにしたい。
今後は今までやってきたようなポップな曲を書きたい、ということにはならないと思いますか?
HARCO いや、そんなことはまったくないです。でも今までみたいな作風に戻りたくなっても、「HARCOに戻りたい」とはならないはず。
HARCOを包括した青木慶則、という感じでしょうか。
HARCO うーん、どうかな。とにかく人間は変わらないですし、変えようと思っても5%くらいしか変わらないんじゃないかなと。端から見たら1%くらいしか変わってないんじゃない?って言われるかもしれない(笑)。でも自分の中ではがらっと変わったんだと、良い意味で思い込み続ける気はしてます。
きっと、名前を変えて時が経ってくれば、もっと自由になっていくんじゃないかなと思っています。歌にこだわらず、映画音楽とか、もしかしたらディレクターとか、やっているかもしれないですし。何にでもチャレンジしてみたいです。
あと、本当にインストユニットを組みたいなって話は出ていて。
結構現実的に、そちらの方も実は進んでるんですね!
HARCO そうですね。まだ音は出してないんですが、組もうって話はもう友達としていたりしますね。
あと、簿記の勉強をしてみたいですね。会社作ってみたら面白そうだな、とか(笑)、海外にももっと頻繁に行きたいな。
アメリカのミネアポリスにはHarcopatchやOCTOCUBEのお友達もいらっしゃいますよね。世界の人とすぐ仕事できるのは、言葉を超える音楽ならではというか。
HARCO たまたま最近海外に移住する友達が増えてきたりもしていて。YeYeちゃんから、オーストラリアのメルボルンでミュージシャン友達のつながりをどんどん増やしているって聞いて。あと僕がこのあいだ行ったベルリンに移住した友達もいたり。ベルリンはすごくいい街で、吉祥寺みたいな気楽さがあって。アーティストビザも取りやすいらしいので、実は帰ってきてからしばらく、本気で移住を考えてました(笑)。
なんだか、可能性を無限に広げていってますね!
HARCO と言いながら、逆にだんだん、真っ白にもなってきていて。すごく今ニュートラルな気持ちで。だからあまり決め込まないようにしてます。
新作の話に戻りますが、終始、HARCOから青木慶則を先に見すえた作り方をされているというか。とにかく前に行くぞ!っていう、意気込みが感じられますが。
HARCO レコーディング寸前にもう一押しということで作った「Let Me Out」と、同じく寸前にストックから引っ張り上げた「あらたな方角へ」。この2曲はやっぱりそういう、前に進むぞ、方向転換するぞっていう気持ちが頭にあったので、自然と自分を鼓舞するような詞になったり、そういった曲を選んだり、という風になったんだと思っています。
でも、音楽を聴く動機って、みんな誰しも、今よりもう少し元気になりたいとかってたいていありますよね。僕自身、好きな音楽を聴いたら、やっぱり元気になることの方が多いので。僕の今までのアルバムの中には、背中を押す曲が多めのアルバムってあんまりなかったから、あってもいいんじゃないかなって。
実際歌詞を聴くと、すごく逡巡しているし不安もある、でも進むんだ、というような等身大の空気が散りばめられているのがHARCOさんらしいですよね。……余談ですが、統計によると6月は転職される方が多いらしいので、6月に発売というのは、ちょうど誰かの後押しになるいい季節かもしれませんね(笑)。
HARCO しまった、帯にそれ書いておけばよかったかな(笑)。「6月の転職にこの一枚!」って。
● 風を入れかえる
ところで、青木慶則になったらHARCOの曲はしばらく歌わない、ということは、このアルバムの曲をライブで聴けるのはひとまずはあと半年だけ、ということなのでしょうか。
HARCO そうなんです。本当に。
あの、いまさらですが、今年っていうのは2017年ってことですよね、その、2017年度ということではなく?
HARCO (笑)そうです。
編集長 ちょっと、HARCO期間、延ばそうとしてない?(笑)
や、すみませんつい(笑)。あと半年かあ、短いなあ……とあらためて思ってしまって。
HARCO とはいえ、一生HARCOの曲を歌わないわけではないので。ここで一旦、今年で締めるというのは、男のけじめかなと。ラジオ番組におじゃましたときに、南壽あさ子さんが言ってくれたのが「風を入れ換える」っていう。いい言葉だなあって思いました。僕はさっきの「男のけじめ」としか思いつかなかったんですが、なんだか筋肉質で僕らしくない(笑)。
たしかに「風を入れ換える」って、確かにHARCOさんが書きそうな言葉ですね。……文章といえば、今後文筆業などの構想はありますか? HARCOさんって文章がいつも本当にすごいので、大好きなんです。
HARCO やりたいですね。小説なんかは昔、何回も書いたことがあって。ハタチくらいのころかな。でもだいたい、原稿用紙5枚目くらいで完結する(笑)。
星新一みたい。
HARCO そう、まさに。だからショートショートならっていう感じで。短編は描きたいかなっていうのはあるんですけどね。でもどちらかというとエッセイの方がすらすらと書ける。もしかしたら物語ものは、ショートショートだとしても苦手なのかも。真剣に書くとなると。
そんなコラムや旅行記などが掲載されたHARCO PRESSのvol.1が2年前に出ましたが、vol.2は今度のツアーでは出しますか?
HARCO 出しますよ。それも、未発表音源をおまけにつけます。なので、もう1枚の僕のアルバムだと思っていただければと。
それは、ファンにとっては垂涎モノのお蔵出しになりますね。楽しみです。
● 諦めていたから、いいものができた
最後に、今回のアルバムの手応えを教えて下さい。
HARCO 『ゴマサバ〜』はバンドサウンドだけど結構インドアポップスな感じだったのに対して、『あらたな方角へ』は、陰と陽でいうと陽側の、開けているほうかなと思っています。
今って世の中的にCDの売り上げは減っているけれど、イヤホンをしている人はむしろ前よりよく見かけるんですよね。ポータブルっていう意味での音楽は、以前よりすごく浸透してるのかなと。で、このアルバムはずばり、そういうのに向いている曲かなという感じがします。ギアが入るというか。
『ゴマサバ』を作り終えた時に山田稔明くんに「いやぁ、もう名盤できたね!でも、こんないいものできたら次がプレッシャーじゃない?」って。彼も『新しい青の時代』っていう名盤アルバムができてから、すごく苦労したみたいで。でも、そこで僕が言ったのは「あっ、大丈夫、もうね、諦めてるから!」って(笑)
え!(笑)
HARCO 『ゴマサバ〜』、あれはもう超えられないと思って。だからもう別のベクトルのものを作ろうと最初から思っていて。で、今作ができあがってみたら、思いのほか……なんて言っちゃいけないけど(笑)、すごーくいいものができたんです。多分、そうやってハナから諦めていたおかげだな、というか。あとは天然だったから良かった、っていう(笑)。真面目だけど肝心なところが抜けてるから、すぐいろんなことを勝手にリセットしちゃうんですよ。
そんなわけでとてもいいものができたと思っているので、いろんな人に聴いてもらえたらと願っていますね。
東京都世田谷区大原2-27-9
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HARCO『あらたな方角へ』
発売:2017年6月21日(水)
価格:2,916円(税込価格)
品番:UVCA-5005
レーベル:Polystar/witz
収録曲:
01. Monday Mornings
02. 東京テレポート
03. 春のセオリー *山田稔明と共作、山崎ゆかり(空気公団)も参加
04. 北斗七星
05. TOKIO – 平野航&HARCO REMIX –
06. 期待の星 *早瀬直久(ベベチオ)、田中潤(ゲントウキ)と共作
07. Let Me Out
08. 親子のシルエット
09. 秋めく時間たち *伊藤俊吾と共作
10. ロングウェイホーム
11. あらたな方角へ
参加ミュージシャン:
山崎ゆかり(空気公団)
山田稔明(GOMES THE HITMAN)
早瀬直久(ベベチオ)
田中潤(ゲントウキ)
伊藤俊吾
安田寿之
Adi Nada
石本大介
伊藤健太(ex.ゲントウキ)
榊原大祐
ほか
HARCO LIVE TOUR 2017 20th Anniversary Special – HIKINGS – ============== |
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