2015-08-17 00:00

ムサビ芸術祭のフェス型企画『オトトヒト』開催決定。主催団体『音めがね』のムロタ代表にインタビュー

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武蔵野美術大学の芸術祭でフェス型企画『オトトヒト』を開催することで話題を集めている音めがね。これまでにも、ライブと講演のイベント『音めがね』を開催したり、イベントと連動したインタビュー冊子を刊行するなど精力的な活動を行ってきたグループだ。今回は、代表のムロタマユさんにインタビューをすることができた。

 
オトトヒトの開催と第1弾発表の記事はこちら
ムサビ芸術祭のフェス型企画『オトトヒト』開催決定。Vampillia、柴田聡子、Omodakaら

 

text by Fuhito Kitahara

 
 

| ここでなら美術と音楽のコラボレーションできる

 

   本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介をお願いします。

 

ムロタマユ(以下、ムロタ) 武蔵野美術大学4年生で芸術文化学科を専攻しているムロタマユといいます。ゆるふわ就活中です。

 

   ムロタさんは、音楽イベント企画集団『音めがね』という団体の代表をされているんですよね?

 

ムロタ 音めがねは、武蔵野美術大学の中で、音楽と講演のイベントをやっている団体です。「音をみつめる」みたいな意味合いで音めがねって名前にしたんです。

 

   そのイベントには、これまでにどんな人たちを呼ばれましたか?

 

ムロタ シンガーソングライターのHARCOさん、クロノ・トリガーなどのゲーム音楽作曲家の光田康典さん、元P-MODELの中野テルヲさんと三浦俊一さん、今回芸術祭でもPAをお願いする吉祥寺のGOK SOUNDの近藤祥昭さん。今年の1月には、ONE PEACEやジョジョの奇妙な冒険の主題歌を手がけた田中公平さんをお招きして、この前はヤマザキマリさんととり・みきさんをお呼びしました。

 

   音めがねが発行しているインタビュー冊子『音と生活』ですが、これはどのような経緯で作られたんですか?

 
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音めがねが刊行しているインタビュー冊子『音と生活』
毎回1万字をはるかに超えるロングインタビューで読み応えバッチリだ。
バックナンバーはこちらのページで購入可能だ(第1号は完売)。

 

ムロタ 最初にHARCOさんをイベントにお呼びするって決まった時に、どうせだったら「なにかカタチにしたいね」ってなって、オリジナルの小冊子作ることになりました。当時はZINEとかも流行り始めていたころだったので。その時に、HARCOさんが「やるなら、ずっと続けていった方がいいよ」って言ってくれて、制作が毎回恒例になりました。つまり、こうやって続けられたのは、元はと言えばHARCOさんのお陰なんです。編集やデザインは全てわたしが手がけていますが「大好きなHARCOさんに見せる」ということですごく気合いをいれた1冊目のベースがあるおかげか、続刊もとても評判がよくて。今でもちょこちょこバックナンバーが通信販売で出ます。ありがたいですね。

 

   次のイベントと、最新号の予定は?

 

ムロタ 残念ながらありません。ヤマザキマリさんととり・みきさんの回で講演とライブのイベント『音めがね』は終了させてもらいました。わたしが卒業しちゃうので。ですが、10月のムサビの芸術祭で『オトトヒト』というフェス型企画を開催します。

 

   それはどのようなフェスになるのでしょうか?

 

ムロタ いわゆる学園祭のライブステージなんですが、それを思いっきりフェス型にしちゃいました。とはいえ、ふつうのフェスっぽくしすぎたら目新しくもないし、かといって単なる学園祭クオリティでも嫌だなと。
 最近のフェスってどれも似たようなのばかり増えてきてて、みんなそろそろ飽きてきてるんじゃないかと思うんですよ。全国津々浦々、同じようなミュージシャンばっかり集めている気がして。このままだと、伝言ゲームみたいにどんどん劣化してって、あんまりみんなフェスに来なくなるんじゃないかなと心配しています。
 美術の方でも芸術フェスみたいなものがあるんですけど、地方でも東京の人が東京のアーティストを呼んで東京のお客さんが来る、みたいな状況になってるんです。音楽フェスとあんま変わらないと思いますよ。
 だけど、それをミックスしたらどうかなっていうのは思っていて、ムサビでなら美術と音楽のコラボレーションができるので、だから芸術祭でフェスをやろうと思ったんですよ。美術ってアカデミックなイメージが強いけど、大学の学園祭の場合は超ポップカルチャーなものがいっぱいあるんで、フェス的な音楽とはすごく相性いいと思うんですよね。

 

   第1弾アーティストを拝見しましたが、すごく個性的なラインナップですよね。出演者さんはどのように決めているんですか?

 

ムロタ 4人のスタッフでリスト化して決めてますが、ずっと好きでいられると思える音楽かどうか、を意識しています。10年後にも、ライヴを見てワクワクした思いが残ってるようなものがいい。そうでないものは嫌。それがとにかくもうわたしの哲学みたいなもので、それは音楽に限らず、ずっと大切にしていることです。
 あとはムサビの現役生や卒業生、教員にもいいアーティストがいるので、そんな方々にお声かけしました。例えば柴田聡子さんはムサビの卒業生で。本当は卒業生の大森靖子さんにもお声かけしたかったんですが、ステージ上でご出産されかねない時期なので(笑)。学生たちに外部のアーティストと心に残る対バンをさせてあげられたらいいなと。そしてアーティストからも、学生バンドを評価してもらいたい。『オトとヒトとを繋げる』ってことにはこだわっています。

 

   なるほど、『オトトヒト』とはそういう意味でつけたタイトルなんですね。今回はPAさんにもこだわりがあるとお聞きしましたが?

 

ムロタ 音響にはずっとこだわっていて、GOK SOUNDの近藤さんにPAをお願いすることになりました。近藤さんは、フジロックなどでも音響を度々担当されている日本屈指のエンジニアです。30年以上芸術祭のステージで音響をやってくださっていたんですが、去年は芸術祭のステージが消えてしまって……。ライヴを制すのは最終的にはPAだ!と思うんです。いい音響さんというのは、ミュージシャンのポテンシャルを最大限に引き出してくれるんですよね。

 

   イメージアートやSEは外部のアーティストにお願いしたんですよね?美大生ならイメージアートは自分たちでも作れるのではと思ったのですが、そこにも何かこだわりがあるのですか?

 

ムロタ イメージアートを作ってくれたのは、ニューヨークに在住してる新進気鋭のアーティスト菊地麻衣子っていう人です。この人はわたしが小学校からずっと一緒で、ムサビの卒業生なんですよ。わたしたちも美大生なので絵は描けるんだけど、音めがねはキュレーター集団なので、いっそのことみんながまだあんまり知らない、でもすごく素敵なアーティストにお願いしたいと思って担当してもらいました。アーティストの登場時に流れるSEはHARCOさんに書きおろしてもらったんです。自分が一番好きなミュージシャンの音楽を世界で一番はじめに聴く。まさに趣味と実益ですね。部屋で一人で震えました(笑)。

 
 
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菊地麻衣子さんがアートワークを務めたオトトヒトのフライヤー

 
 

| 企画は表現です

 

   昨年の芸術祭ではライブステージはなかったと言われてましたが。

 

ムロタ そうなんです。「誰もやらないならわたしたちがやる!」「補助金とかいらないから!」みたいな感じで掛け合ったんですけど結局いろいろあって許可がおりず、というか反故にされて。一言で言えば、昨年度の実行委員とはソリがあわなすぎた(笑)。

 

   音楽がない学園祭はさびしいですよね。

 

ムロタ 元々ステージ企画は、毎年実行委員が運営するものだったのですが、なんでも2013年にお金を遣いすぎたとかで……ステージを作るお金が足りなくなったので企画自体やめたそうです。それを「遣いすぎてごめんなさい」って学生たちに謝るならまだしも、彼らの上層部が「ムサビの学園祭なんだから、ムサビ生だけが出てムサビ生だけが表現するイベントであるべきで、外部から有名でもないアーティストを招聘するようなステージはいらない」みたいな内向きなことを言いだすようになったんですよね。友達や親御さんだけが来る高校の文化祭みたいにしたいのか、と。それで、2014年にステージ企画がなかったから、今年度の実行委員へステージ運営の仕方が引き継がれず、今年もなくなってしまって。我々が最も懸念していた事態が、現実になってしまったんです。

 

   美術大学だし、どんなアーティストを呼ぶんだろうという期待みたいなのが一般的にあると思うんですよ。一般の大学の学園祭とはひと味違うぞみたいな。なのに、有名ではないアーティストは呼ばなくてもいいみたいなことは、企画者としてはすごく寂しいですね。イベントを企画する、どんなアーティストを呼ぶ、出演順はどうするって、ある意味で企画者にとっての表現ですよね。

 

ムロタ 企画は表現そのものですよ。わたしが所属している芸術文化学科というところは、まさに企画者である学芸員を育てるという面も強い学科なのですが、企画を否定されたら、なんで美大にそんな学科があるのか、とか、学芸員ってなんなんだ、ってことになるんですよ。それなのに、企画という表現を表現とわかっている人は少なくて。ですが言ってしまえば、油絵の人が例えばどんな支持体(注1)を選んで、どんな絵具を使って、どんな筆を使って塗るかっていうのもじゅうぶん企画なんですよね。でも作品作ってなんぼ、それだけみたいな感じ。

 

   それで、2014年はライブはなかったと……。

 

ムロタ 腹が立ったので、昨年は芸術祭の直前の時期に、昼休みや放課後のムサビにプロのミュージシャンを招いて野外ライヴをやってもらっちゃう『ウラメガネ』というイベントを10日間くらいやったんです。テニスコーツさんとか、金佑龍さん、小林うてなさん、”森は生きている”の竹川悟史さん、それからゆーきゃんさんにも出てもいました。映像学科のクリストフ・シャルル教授や、学内のダンサーShirotan&Johnや、よだまりえちゃんにも出てもらって。それがすごく評判よくて。

 

   もう気分的には仕返ししてやったぞくらいな感じ?(笑)

 

ムロタ そうそう、音楽とユーモアを武器にした、趣味のイイ仕返し(笑)。イエローサブマリンのアニメみたいなやつ。
 
 
展示風景

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過去の芸術祭の様子。フリーマーケットや模擬店などはもちろん、美大ならではの絵や彫刻、金工、ガラス美術等の展示に、サンバやパレード、プロレス、演劇も。上の写真は、毎年恒例の男神輿・女神輿だそうです。

 
 

| もっと評価されるべきアーティストっていうのが美術にも音楽の世界にも山ほどいて。そういう方々にスポットが当たるような世の中になってほしい

 

   ムロタさんは大学以外でもフェスやイベントに関わられてますよね?

 

ムロタ ぐるぐる回る2012(注2)でキュレーションを行ったことが、わたしのキュレーター生活の始まりです。その後、廃病院パーティーでもスタッフとキュレーターをやらせていただいて。初台にある廃病院を借りて行ったライヴイベントで、3回で終わっちゃったんですが、楽しいイベントでした。最近は縁あってSofar Sounds(注4)というイベントに関わってます。ロンドン発のオシャレなライブイベントなんですが、来場するまでアーティストはシークレットなんですよ。場所も、どっかの人んちとかで。大物が出ることもあるし、まったく無名の人が出たりもします。目当てのミュージシャンがいるから来るのではなくて、音楽の流れる場所が好きというリスナーシップ高めな人たちに「実はこんな隠れたいいアーティストがね……」とおすすめできちゃうブッキングが面白くて。

 

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Sofar Soundsの様子。ライブ会場に猫がふつうにいるのがビックリだ。

 
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廃病院パーティーVOL.3で室田さんがキュレーションした『あの日に還りたいステージ』の様子。

 

   そもそも、どういうキッカケでフェスやイベントにキュレーターとして関わるようになったんですか?

 

ムロタ 廃校フェス(注3)やぐるぐる回るにお客さんとして遊びに行っていたのですが、当時の代表だった竹内知司さんが、毎年mixiのぐるぐる回るのコミュニティで「キュレーターを募集します」みたいなことを書いてらして。ライヴって普通の人でも作れるの?って思ったのが興味の始まりですね。で、ぐるぐる回る2011の時に会場で竹内さんにたまたま遭遇したので「来年キュレーターやらせてください!」って話しかけてみたんですよ。そうしたら、「別に人呼べるならいいよ」ってふわっとした感じで言ってくれて。

 

   ふわっとね(笑)。

 

ムロタ のんびりと、イベントを俯瞰するように一人で歩いてましたしね(笑)。「いいんですか?わたしイベントとか全然やったことないですよ」って言ったら「あそこに見えるステージの人達なんかみんな大学生だしね」みたいに言ってくれて。どこぞの馬の骨の申し出に「いいよ」って即答できる懐の深さがすごいですよね。竹内さんはなんだかとてもひょうひょうとしてて、ああいう人がイベントとかの代表をやってるんだなと。この人いいなあ、こんな人になりたいなって思いました。でも2012年になって、なかなかキュレーター募集が出ないなって思ってTwitterとか調べてたら、竹内さんはお亡くなりになっていて……。でも、その後、ぐるぐる回る2012で共同代表をやられてたフニャさんとなんとか連絡が取れたのでキュレーターになることができたんです。

 

   大学生活4年間でサークルを立ち上げ、ライブと講演のイベントを開催し、インタビュー冊子も作り、外部のフェスやイベントにも関わられて、大忙しでしたね。

 

ムロタ 本当にありがたいです。わたし3年前までは音楽イベントなんて1回もやったことなかったのに、今はみなさんがわたしをいろいろ必要としてくれることが嬉しくて。

 

   最後にひとことお願いします。

 

ムロタ そういえば、ぐるぐる回るでも、廃病院パーティーでも、音めがねでも、HARCOさんを呼び続けました(笑)。今年の春に名盤すぎるニューアルバム(「ゴマサバと夕顔と空心菜」)が出たんで、もうずっと聴いてます。HARCOさんのことは、なんかぬるい応援ソングの人とか思ってる方も多いのかもしれないですけど、あの人の作風の幅はハンパないですし、1曲1曲がすごい練れてて。世界中の人に聴いてほしいと、割と本気で思ってキュレーションしてます。
 それはHARCOさんだけじゃなくて、もっと評価されるべきアーティストっていうのが美術にも音楽の世界にも山ほどいて。そういう方々にもっとスポットが当たるような、そういう世の中になってほしいと思います。若手や、奇をてらった人たちがちやほやされるばかりじゃなくて。ほとんどの人は、好きとか嫌いとかじゃなくて、ただ知らないだけなんです。そういうところにもっと、わたしが開けられる風穴があるんじゃないかな、と思っています。
 

   ありがとうございました。ちなみに、卒業後のお仕事は?

 

ムロタ 聞かないでください(笑)。なんとかなると思ってます(笑)。

 
 

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オトトヒト

2015年10月24(土)、25日(日)、26日(月)開催
武蔵野美術大学鷹の台キャンパス体育館
東京都小平市小川町1-736

出演:
Vampillia
柴田聡子
Omodaka
クリトリック・リス
寺田創一 House Set
トリプルファイヤー
近藤ていゆう
SPICA
and more
(8/4の第1弾発表時点)

 


本日(8/17)公開されたオトトヒト予告第1弾ムービー

 

オトトヒトの開催と第1弾発表の記事はこちら
ムサビ芸術祭のフェス型企画『オトトヒト』開催決定。Vampillia、柴田聡子、Omodakaら

 

おわりに

インタビューでは大学入学から現在までのことを総ざらいでお話しいただいた。スペースの都合で割愛せざるを得ない部分も多かったが、ムロタさんはこの4年間休みなしで走り続けてきた。芸術祭で開催されるフェス型企画オトトヒトは、ムロタさんたち音めがねの総決算的なイベントになるだろう。しかし、どれだけHARCOさんが好きなんだよというインタビューになってしまった(笑)。という僕もHARCOさんが大好きです。最新アルバム「ゴマサバと夕顔と空心菜」、みなさんぜひ聴いてみてください。

 

編集部注

 

支持体
支持体は絵を支える物体であり、絵画との関係の中でこれまで様々なものが試されてきた。古くは石や地面が支持体となり、絵画の概念や技術が進歩するに従い、木、紙、布など様々なもので試されるようになった。(Wikipediaより抜粋)
https://ja.wikipedia.org/wiki/支持体

 

ぐるぐる回る
2010年から埼玉県さいたま市の埼玉スタジアム2002で開催されているフェスティバル。広大なサッカースタジアムのコンコースや客席などにステージを10カ所以上配置し、お客さんは文字通り会場をぐるぐると回ってライブを楽しめる。廃校フェスの後継フェスとして始まったフェスティバルである。2013年からは派生フェス『ぐるぐるTOIRO』もさいたまスーパーアリーナTOIROにて開催されている。今年は、9月25~27日にぐるぐるTOIROが開催される。
http://gurugurutoiro.net

 

廃校フェス
2008~2009年に東京都新宿区の芸能花伝舎(旧淀橋第三小学校)で開催された都市型フェスティバル。各ステージをキュレーターと呼ばれるオーガナイザーが個別に仕切るフェスの走りとなった。大人の文化祭が全体のテーマとしてあり、ライブはもちろんのこと、各教室では映像上映、インスタレーション、ワークショプ、喫茶店などが行われた。

 

Sofar Sounds
心地よい音楽と空間を共有するためにロンドンで生まれ、またたく間に世界の各都市に広がったイベント。日本では、2014年3月に東京・原宿のど真ん中にあるシェアハウス「The Share」のリビングルームにて第1回が開催された。2015年8月29日(土)には『sofar sounds tokyo Vol 7』が開催される予定。9月には札幌でも開催される。
https://www.facebook.com/SofarSoundsTOKYO




関連リンク

オトトヒト 公式サイト
音めがね


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